トヨタグループが進める人事給与システム統合、カギは各社のアイデンティティの尊重

author=今林敏子

約27万人の従業員、19社を擁するトヨタ自動車グループが、人事給与システムの統合を進めている。グループ企業数の多さから困難が予想される取り組みだが、同グループはどのような課題を解決するために実施しているのだろうか。また、成果は出ているのだろうか。

 

約27万人の従業員、19社を擁するトヨタ自動車グループが、人事給与システムの統合を進めている。グループ会社といえど、事業はさまざまであり、各社のカルチャーも異なるはず。

グループ企業数の多さから困難が予想される取り組みだが、同グループはどのような課題を解決するために実施しているのだろうか。また、成果は出ているのだろうか。

同グループの福利厚生事業を請け負うトヨタパーソナルサポートの取締役 社長 河合隆成氏、同 経営企画部 副部長 栗山輝氏、同社をサポートしている電通総研 赤木浩一氏、大澤航一氏に話を聞いた。

左から、トヨタパーソナルサポート経営企画部 副部長 栗山輝氏、トヨタパーソナルサポート 取締役 社長 河合隆成氏、電通総研 赤木浩一氏、大澤航一氏

グループシェアドの一環としてプロジェクト始動

河合氏は、トヨタ自動車グループにおける統合の始まりについて、次のように語った。

「1997年から、トヨタ自動車グループでは経営効率化を目指し、分社化を推進していました。グループ各社が同じ機能をバラバラで分社していたので、そうした重複業務を集約したシェアード活動をグループ全体で進める必要がありました。そうした中、トヨタパーソナルサポートは、福利厚生分野のグループシェアード活動により、生産性と専門性を高めたより良いサービス提供を目的に2002年に設立されました」

トヨタパーソナルサポート 取締役 社長 河合隆成氏

 

しかし、グループの規模が大きいこともなり、なかなか集約が進まなかったという。そうした中、CASE(Connected、Automated/Autonomous、Shared & Service、Electrification)が注目を集め始めた2017年ごろから、同グループもモビリティカンパニーへと舵を切り始めた。

実証都市「Woven City」の建設も始まり、「投資も膨らむことから、あらためてグループ各社の重複業務を解消して生産性を高めるため、もう一度設立主旨に立ち返りグループシェアードをしっかりやろうということで、プロジェクトが立ち上がりました」と、河合氏は話す。

こうして、人事給与業務の統合を図るプロジェクトが立ち上がった。業務プロセスおよびシステムが各社異なっているところから、業務・システムの標準化・集約化、業務比較による継続的改善、共通システム利用によるスケールメリット創出を目指すことになった。

従業員のやる気に関わる制度は残す

プロジェクトチームは、トヨタパーソナルサポートのメンバーが中心となって、各社人事担当者にも参加してもらった。最初に取り掛かったのは、統合の必要性を理解してもらうとともに、各社の現状とやりたいことを確認することだった。

この前準備に2年近くかけたという。その背景には、企業数が多いこともあるが、各社の想いを尊重したいという狙いもあった。

河合氏は、「トヨタグループ各社は、設立の趣旨や歴史、事業内容も異なり、各社の特性や強み、アイデンティティを大事にしています。また、人事制度は従業員の意欲に直結するので、その制度をつくってきた各社の想いを尊重したいと考えています」と話す。

「企業では人づくりが大前提です。人事制度において共通化できる部分はしますが、従業員のやる気やモチベーションに関わってくる各社の想いは残します」(河合氏)

例えば、安全性の問題から自転車通勤を禁止している企業も多い。しかし、同グループの中には、会社周辺の渋滞事情に考慮して、自転車通勤手当を出している企業がある。栗山氏は「グループ一律で廃止するのは簡単ですが、そういうことはしていません。自転車通勤手当を出すことで、従業員は会社が共感してくれていると感じると思います」と話す。

トヨタパーソナルサポート 経営企画部 副部長 栗山輝氏

 

このように各社の細かな制度を一つ一つ確認しながら調整を行ったので、ある程度の時間がかかってしまったのは当然といえよう。

従業員の生活に直結している人事給与だから、信頼する「POSITIVE」を選択

こうした同グループのきめ細やかな統合作業を支えているのが、電通総研が提供している統合人事・給与システム「POSITIVE(ポジティブ)」だ。もともと、トヨタ自動車で同システムを導入しており、その信頼性は織り込み済みだったという。

栗山氏は「トヨタ自動車の8万人の給与業務を安定して処理できているので、POSITIVEを信頼していました。人事給与は従業員の生活に直結している重要なシステムであり、社内のさまざまなシステムと連携しているため、安定していなければなりません」と話す。

また、日本の税制改正などにいち早く対応することなどを踏まえ、国産のシステムであることも条件の一つだった。そのほか、同グループは制度が複雑であるため、アドオンで対応できるなど、拡張性が高い点もPOSITIVEの強みだったそうだ。上述した自転車通勤手当などにも「しっかり対応できる点がよかった」と栗山氏は語る。

電子化、コスト削減、作業効率化の効果が

現在は、4社目に「POSITIVE」を導入中だ。先行導入した企業とともに、業務とシステムの標準をある程度決めて、それに合わせられるよう、各社で調整しているという。

ただし、すべての企業がその標準に合わせられるとは限らない。栗山氏によると、各担当者に対し、標準に合わせられない場合はアドオンが必要、つまりコストが発生することを伝えたうえで、調整してもらっているとのことだ。

「中には、『今の状態でいいのだろうか』と迷いながら業務を進めている人もいます。そうした人には、グループ会社全体を見ている私たちの知見を共有しながら、アドバイスをしています。その結果、標準に合わせるよう、業務やシステムを変えてもらえることがあります」(栗山氏)

「POSITIVE」を導入したことで、紙ベースで進めていた業務の電子化が進んでいるそうだ。今後は、人手を要する申請フローについて、申請と通知のデジタル化、自己完結型のプロセスの実現を目指す

加えて、河合氏はPOSITIVEの長所について、次のように語った。

「POSITIVE のよいところは、給与計算処理速度の早さと柔軟性の高さ。POSITIVEは、Office製品との親和性が高く、人事部で必要な情報をPOSITIVEから簡単に出力できます。さらに、RPAなども駆使することで、効率的なデータ活用を実現しました。このようなシステムの自動化により、人事業務のリソースをシフトすることができました」

「自動化がカギです。自動化を実現することで、制度が変わったときに並行して対応できます。これまで、システムの作業に追われていましたが、人事としての専門性を高めるための人材を育成できるようになりました」(河合氏)

今回の作業においては、システムを導入する企業を重ねるごとにノウハウが蓄積しているため、効率よく作業が進められており、プロジェクトに関わる人数も減らしているという。

ちなみに、コストは、自社で運用している場合と単純に比べられないが、総合的に考えると抑えることができたとのこと。栗山氏は「各社が単独で導入を進めていたら、もっとコストも時間もかかっていたはずです。グループ共通で使うことを前提にスタートしているので、導入コストも減ります」と話す。

河合氏は、今後の展望について、「当社はトヨタ自動車グループの専属の福利厚生会社として、グループ各社のアイデンティティを守りつつも、環境変化に応じ、自働化などのツールや運用プロセスは柔軟に変えていくことを目指します。また、トヨタモビリティカンパニーとして変わるために貢献し、ESGの観点から選ばれる企業にならなければならないと考えています」と語っていた。

トヨタパーソナルサポート株式会社様

本社所在地 愛知県豊田市トヨタ町15番1 サービス&サポートセンター3階(トヨタ自動車㈱本社敷地内)
資本金 6,000万円(トヨタ自動車株式会社100%出資)
従業員数 322名(2024年8月1日現在)
URL https://www.toyota-ps.co.jp/

※2024年 11月27日にTECH+「企業ITチャンネル」に掲載された記事を転載しています。

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