リスキリングとは?意味や導入時のコツ、リカレント教育との違いを解説 人事キーワード・ノウハウ 公開日:2025年01月31日(金) 最終更新日:2025年02月12日(水) リスキリングは、” 新たな業種・職種に順応できるようにスキルやノウハウを学ぶこと”です。企業のDX実現に向けて、新たに必要となる業務に対応できるように、従業員がスキルや知識を再度習得するという意味で使われます。 しかし、導入を検討する中で「何を学ぶべきなのか」「どのように推進していけばいいのか」と悩む企業も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、リスキリングの意味や正しい導入方法などを解説します。企業の人材育成に取り組んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。 目次リスキリングとはリカレント教育、生涯学習との違い社員のリスキリングが注目されている理由企業がリスキリングを導入するメリット・デメリットリスキリングを実践する5ステップリスキリングを成功に導く3つのコツリスキリングでは何を学ぶべきかまとめ リスキリングとは リスキリングとは、” 新たな業種・職種に順応できるようにスキルやノウハウを学ぶこと”です。re-skillingが語源で「学びなおす」という意味があります。日本政府も推進している取り組みであり、経済産業省においては以下のように定義しています。 「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」 つまり、新しいスキルを学ぶ機会を設けることで、社員による新たな分野へのチャレンジや異なる職種への転換を支える取り組みです。マーケティングやプログラミング、データ分析などは、学んでおきたい領域としてよく取り上げられています。 リスキリングの導入によって、人材不足の解消や企業のDX推進などが期待できます。 リカレント教育、生涯学習との違い リカレント教育 リスキリングと似た言葉として挙げられるのが、「リカレント教育」です。リカレント教育は、必要に応じたタイミングで一度会社を離れて教育機関で学び直し、再就職することを繰り返します。リスキリングは、会社に所属したまま新しい知識やスキルを学ぶのに対し、リカレント教育は会社を辞めてから学び直す点が大きな違いです。 また、リスキリングは、企業の成長力強化のために必要なスキル獲得を社員に促す”企業中心”の考え方ですが、リカレント教育は個人のスキルアップや自己研鑽を行う”個人中心”の考え方という点で意味が異なります。 生涯学習 生涯学習もリスキリングと似ている言葉ですが、生涯学習は、学校教育・家庭教育・ボランティア活動など生涯にわたって行う学習のことです。リスキリングは、企業における環境の変化に順応するための学習に特化していますが、生涯学習は豊かな人生を送るために行うことが目的です。 社員のリスキリングが注目されている理由 海外から遅れを取っている リスキリングは、2020年のダボス会議の議題として「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」が取り上げられたのが、注目されるきっかけでした。内容としては、第4次産業革命の流れに対応するために「2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」というものです。 第4次産業革命の中でも特に注目されるDX化の流れを受けて、欧米諸国の企業では社員のリスキリングの取り組みが活発になっています。しかしその動きから遅れを取っているのが日本です。 以下はリクルート・Indeedの『グローバル転職実態調査2023』から抜粋したグラフです。「あなたは週何時間程度、「学び」や「リスキリング」に取り組んでいますか?」の質問に対して、「週に3時間以上」と回答した割合は他国よりも少ないことが分かります。 リクルート・Indeed『グローバル転職実態調査2023』 全世界でDX化が進んでいる中で、日本もリスキリングに前向きに取り組むべきといえます。 日本政府による1兆円の投資 岸田総理は2022年10月の所信表明演説で、5年間で合計1兆円をリスキリング支援に投じることを表明しました。政府は「新しい資本主義」の実現を掲げ、労働市場の柔軟性と個人のキャリアアップの機会を拡大することに注力し始めています。これにより、国内企業におけるリスキリングの推進がさらに活発になると予想されています。 経済産業省の「人材版伊藤レポート」 経済産業省が2020年9月に報告した「人材版伊藤レポート」には「リスキル・学び直しのための取組」の項目があり、レポートの公表以来、各企業の人的資本経営についての関心が高まっています。内容としては、社員のリスキルを促す際に社員それぞれが自身の過去の経験やスキル、キャリア上の意向、強い意欲をもって取り組めるよう会社が支援することについて述べられています。 企業がリスキリングを導入するメリット・デメリット メリット リスキリングを導入するメリットは3つあります。 ・ DX人材を採用するコストが軽減される ・ 新規事業の創出・既存事業の拡大につながる ・ VUCA時代に対応できる DX人材を採用するコストが軽減される DX人材は希少なことから採用コストが大きくかかります。採用できたとしても、自社が求めるスキルを発揮できるかは分かりません。そのためリスキリングを行うと、社員はすでに既存業務を理解しているため、学んだスキルや知識をすぐに業務に活かすことができます。 新規事業の創出・既存事業の拡大につながる リスキリングで高い専門性やスキルを習得することによって、社内全体の知識や視点の幅が広がります。社員が多角的な視点をもつことで新たなアイデアが生まれ、新規事業の創出や既存事業の拡大につながる可能性があります。 VUCA時代に対応できる 現在は社会環境の複雑性が増し、将来の予測が困難なVUCAと呼ばれる時代です。リスキリングによって今までにない知識やスキルを身に着けることで、企業としても時代の変化への素早い対応が期待できます。 デメリット リスキリングを導入するデメリットは2つあります。 ・ 費用がかかる ・ 転職リスクがある 費用がかかる リスキリングを実施するうえで、質の高い教育を実施するとなると費用がかかります。予算が足りなくなる前に、自社が必要とする人材像・スキルを得るにはどのくらい費用や手間がかかるのか導入前に把握しておくことが大切です。 転職リスクがある リスキリングによってスキルや知識を身につけた社員は、今より待遇の良い職場に転職できる可能性があります。優秀な人材の流出を防ぐためにも、長期間雇用している社員を対象にしたり、リスキリング後に給料を上げたりすることで対策を行いましょう。リスキリングをする前に転職の意思をヒアリングすることもおすすめです。 リスキリングを実践する5ステップ 1.今後の事業戦略に基づく人材像・スキルを設定する リスキリング自体は手段であり目的ではありません。そのため、まずは事業戦略に基づいて自社が目指す方向性を定めましょう。自社の事業戦略達成のための課題は何か、課題を解決するためにどのような人材・スキルが必要なのかをピックアップします。 今後の変化を予測するのは難しいですが、方向性が抽象的であると自社に必要な人材・スキルが曖昧になってしまいます。なるべく具体的に言語化し、それを社内で共通認識として持てるように意識してみてください。 2.必要なスキルを習得するための教育コンテンツを決める 人材像・スキルを設定したあとは、教育コンテンツを決めます。教育コンテンツを決める際は、まず「いつまでに習得すればよいのか」から考えましょう。習得に必要な期間から逆算してスケジュールやコンテンツを設定します。 学習方法は、研修やオンライン学習、eラーニングなどがあります。様々な学習方法を準備しておくことで、社員は自分に合った学習方法を選ぶことができます。 多くの学習方法を自社で実施するのが難しい場合は、外部講師や外部の教育コンテンツを取り入れるのもおすすめです。電通総研が提供するe-ラーニング受け放題サービス「まなびプレミアム」には、企業が求めるクオリティに応えるe-ラーニング教材が揃っています。 3.社員に教育コンテンツを提供する 教育コンテンツが定まったら社員に取り組んでもらいます。必ず1on1などを通じてキャリアについて話し合い、その人自身の主体性を大切にすることがポイントです。 リスキリングの目的を伝えるときは、「新しく発足する部署の主任に任命したい」のように明確になっていると社員もモチベーション高く取り組むことができます。また、本業がある中での学習になるため、定期的に報告の機会を設けて、社員の負担になっていないか常に確認しながら実施しましょう。 4.リスキリングしたことを業務で実践する 教育コンテンツでインプットした内容は、積極的にアウトプットできるように実践の機会を設けましょう。リスキリング中に実務に近い経験をすることで、実際に業務として行うときもスムーズに取り掛かることができます。 5.社員同士でフィードバックできる環境を整える 実践したあとは必ずフィードバックを行いましょう。改善点はまた学びとして活かすことで効率的なスキルの上達が見込めます。 可能であれば、ともにリスキリングを行っている社員同士でのフィードバックの機会を設けてみましょう。新しいスキルを学ぶ上で参考にできる点を得られたり、モチベーションを高めあえたりなどの効果が期待できます。ぜひ実施する際は、社員同士が交流しやすい雰囲気づくりを心がけてみてください。 もし、期待した効果が見込めなかった場合は、もう一度カリキュラムやスケジュールを見直してみましょう。 リスキリングを成功に導く3つのコツ 全社的な協力体制をつくる 経営層からリスキリングの目的や必要性を社員に伝えて理解してもらうことが重要です。もしリスキリングに対してネガティブな印象を持っている社員がいたら、学ぶことで自分にどのようなメリットがあるのかしっかり伝えましょう。 また伝えるだけではなく、企業が主体的に支援する制度を設けましょう。例えば業務時間内に学ぶ時間を設定すると、学びやすい雰囲気をつくることができます。運用においても、適宜社員の声を取り入れて改善していけば前向きに取り組んでもらえるでしょう。 社員の主体性を大事にする 効果をさらに高めるためには、企業側の協力はもちろん、社員が積極的に取り組むことが大切です。例えば実務に近いような課題を適宜設定したり、対象者を選ぶときは立候補制にしたりなど社員の主体性を促せるように意識してみましょう。 モチベーションが維持できる仕組みをつくる リスキリングは長い期間をかけて行われます。そのため社員のモチベーションを維持するための施策は継続的に行っていきましょう。 例えば気軽に情報交換できるコミュニティがあれば、習得したスキルで解決できたことを共有したり、誰かと一緒に学んだりできるため孤独を感じずに学び続けることができます。 リスキリングでは何を学ぶべきか リスキリングで習得するスキルは多岐にわたりますが、実際に何を学べばよいのでしょうか。特におすすめのスキルを5つご紹介します。 ITスキル ほぼ全ての業界でデジタル化が進む中、ITスキルの必要性は高まっています。プログラミングや情報セキュリティ、ネットワークなどの知識は業界問わず今後の事業発展のために活かせるでしょう。ITを用いた課題解決は外部に依頼することも可能です。しかし自社内でノウハウが蓄積されず、急速な時代の変化に対応しにくくなる可能性があります。自社でIT分野のリスキリングを行えば、ITの利活用による業務効率化や、安全なデータ管理ができます。 【ITスキルに関する資格】 ・ ITパスポート ・ 基本情報技術者試験 ・ Python3エンジニア認定試験 ・ AWS認定資格 ・ 情報セキュリティマネジメント マーケティングスキル 製品やサービスが売れる仕組みをつくるマーケティングスキルも、リスキリングで取り組みたい分野の一つです。具体的には、商品開発や市場分析、SEOなどの活動が含まれます。 昨今では、ITやAIなどの技術を活用したデジタルマーケティングの需要が高まっています。適切なマーケティング施策を実行することで、顧客満足度の向上や新規顧客の獲得などにつながります。 【マーケティングに関する資格】 ・ マーケティング検定 ・ Webアナリスト検定 ・ Internet Marketing Analyst(IMA)検定 データ分析 デジタル化が進み、幅広い分野で膨大なデータが蓄積されていますが、うまく活用できている企業は多くありません。そのため、蓄積されたデータを分析・活用できる人材が必要です。 必要なデータを整理・加工・分析して事業戦略に活用することで、企業の発展に貢献できるでしょう。 【データ分析に関する資格】 ・ 統計検定 ・ データサイエンティスト ・ データベーススペシャリスト試験 ・ Python3エンジニア認定データ分析試験 ・ G検定 語学スキル 近年のグローバル化に伴い、語学スキルの重要性は高まってきています。今後海外へ事業を拡大していくにはビジネスレベルの語学スキルが必要です。特に英語は、国際的なビジネスシーンで重要な言語です。ビジネスレベルだとTOEIC700点以上の取得が望ましいでしょう。 ビジネスだけでなく日常生活でも役に立つため、リスキリングを考えている人からは特に注目されているスキルです。 【語学に関する資格】 ・ TOEIC ・ TOEFL マネジメントスキル マネジメントスキルは、ヒト・モノ・カネのような経営資源や、チームの連携などを管理するスキルです。生産性や業務効率を考えてプロジェクトを進められるスキルは業界・業種を問わず需要があります。管理職やマネージャーの立場の人はもちろん、そういった役職を目指している人は学んでおきましょう。 【マネジメントに関する資格】 ・ プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP) ・ プロジェクトマネージャ試験 まとめ 今回はリスキリングの意味やメリット・デメリットなどについて解説してきました。 リスキリングは今後の企業の発展にとって必要な取り組みですが、導入には費用や工数が大幅にかかります。そのため、今回ご紹介したコツを実践して、自社のリスキリングを成功に導きましょう。 もし費用感に不安がある場合は、補助金や助成金、給付金を使うことも可能です。気になる方は以下の記事も参考にしてみてください。 ▶【2025年最新】リスキリングに使える補助金・助成金・給付金一覧 電通総研では、人材育成の幅広い課題に対して応える多様なサービスを展開しています。人材育成に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。(電通総研による課題解決例はこちら)今回の記事が参考になれば幸いです。