【第1回】デジタル化の背景と未来像 法制度情報 公開日:2022年03月09日(水) 最終更新日:2024年12月10日(火) デジタル・ガバメントとは、デジタル技術を用いて行政の在り方を変革する動きのこと。 2021年9月にデジタル庁が創設され、企業にもその影響が広まり始めています。特に人事労務分野での対応は急務だと言われており、人事担当者として押さえておくべきポイントは、大きく分類して「社会保険・雇用保険」「税」「従業員ライフイベント」の3つあると考えられます。 本コラムの第1回ではデジタル庁設立の経緯や政府の狙いについて、第2回〜4回では、押さえておくべき3分野それぞれについて、現状とこれからの展望をまとめ、今後どのような対応が必要か、社労士兼システムエンジニアである筆者が考えます。 デジタル・ガバメントとは、デジタル技術を用いて行政の在り方を変革する動きのこと。特に人事労務分野での対応は急務で、人事担当者として押さえておくべきポイントは「社会保険・雇用保険」「税」「従業員ライフイベント」の3つあると考えられます。本コラムでは社労士兼システムエンジニアである筆者が、現状とこれからの展望、今後どのような対応が必要かを全4回にわたりご紹介していきます。 政府はデジタル化によって、どのような社会を実現させようとしているのでしょうか。初めに、デジタル庁設の経緯や政府の狙いを整理してみます。 目次デジタル庁設置までの背景デジタル・ガバメントの本格始動 デジタル庁設置までの背景 デジタル庁は、2021年9月に設置された新しい行政機関です。名前を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。2020年10月〜11月に開催された「デジタル改革関連法案ワーキンググループ」での議論などを経て、第204回国会で「デジタル庁設置法案」が成立したことにより、設置されました。 第204回国会の参議院内閣委員会、総務委員会連合審査会の中で、当時の内閣審議官である二宮清治氏は、日本のデジタル化の現状について次のように答弁しています。 「マイナンバー等のデジタル基盤に関する制度や手続の所掌が複数省庁に分散していること、また、情報システムが省庁ごとに個々にばらばらに構築され、十分な連携がなされていないこと、また、各府省で所管業界を対象としたデータ利活用の推進等が図られているものの、府省横断的な視点が十分でないことといった省庁の縦割りの問題がある」 要約すると、「部分最適なデジタル化に留まっており、全体最適なデジタル化が実現できていない」ということだと思います。 実際、各省庁や全国の自治体が、それぞれの事情に合うシステムを独自に採用し運用する状態になっています。人事関連領域だけでも、e-Gov、届書作成プログラム、eLTAX、e-Taxなどの仕様が公開されており、それぞれがバラバラに動いている状態です。そのため、民間の人事給与システムにおいてもそれぞれの仕様に個別に対応していかなければならず、膨大な対応コストがかかっていました。 また、利用者目線という点でも、民間システムから直接各行政システムにデータを送信する手段(API)を使わない限り、それぞれの手続ごとに対応しているシステムで申請を行わなければならず、申請結果の照会もシステムごとに行わなければならないという不便さがありました。(例:資格取得届はe-Gov、給与支払報告書はeLTAXなど) 企業から行政機関への届出の流れ(「マイナポータル」利用開始前) 企業が年金や税の届出を行うには、それぞれの仕様に対応したシステムを導入・構築しなければならない。また、担当者の学習コストもそれぞれのシステムに対してかかる。 デジタル・ガバメントの本格始動 これらの課題を解決する狙いで設置されたのが、デジタル庁です。 二宮氏は続けてデジタル庁設置の狙いについても、次のように答弁しています。 「強力な司令塔機能を有するデジタル庁の設置などによりまして、国、地方の共通デジタル基盤の整備など、縦割りを排除したデジタル化の取組を進めることとしている」 答弁にある「共通デジタル基盤」にあたるのが、「マイナポータル」です。「マイナポータル」によって、この“狙い”が具体的にどのように成果に結びつくのでしょうか。先ほどの人事関連領域の例で確認してみましょう。 まずは「マイナポータル」によって、それまで統一されていなかったデータ連携の際に必要な仕様の共通化、受け口の一本化が実現されます。これにより、民間の人事給与システムにおいては、「マイナポータル」の仕様にだけ対応すればよいことになり、各手続に迅速に対応することが可能になります。利用者にとっても、例えばシステムの仕様などに変更があった際、民間側のシステムにおいても早期に対応がなされ、スピーディーにシステムを利用できるなどのメリットがあります。こうした恩恵を享受しつつ、一つの行政システムのみ意識すればよいことになり、よりシンプルに申請を行うことが可能になるのです。また、申請結果も「マイナポータル」にだけ照会しに行けばよいことになります。 企業から行政機関への届出の流れ(「マイナポータル」利用開始後) 「マイナポータル」の仕様に基づくシステムを導入・構築すればよく、担当者の学習コストも最小限に抑えることが可能。 これに加えて「マイナポータル」は、個人のマイナンバーカードと密接に紐づいたシステムであるということも大きなポイントです。「マイナポータル」と人事給与システムを繋げることにより、従業員のライフイベント(例:引っ越し、結婚、出産)に応じた情報もマイナンバーカードから取得できるようになる予定です。皆さんも上記のようなライフイベントが起こった際に、会社に様々な書類を提出しなければならず、面倒くささを覚えた経験があるのではないでしょうか。マイナンバーカードを読み取りさえすれば以降の申請などが不要になり、極端な話、「最初の読み取りですべてが完了」という未来も夢ではないかもしれません。 このように大きな可能性を秘めているデジタル・ガバメント。現在はまだ発展途上ですが、今から目を向けておいて損はありません。次回以降、人事関連領域のデジタル化について「社会保険・雇用保険」、「税」、「従業員ライフイベント」の3つに分けて、詳しくご説明いたします。 執筆者略歴 小菅 優太 株式会社電通国際情報サービス HCM事業部製品企画開発部 シニアエンジニア 兼 社会保険労務士 新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の開発に従事。2019年に社会保険労務士試験に合格後、社会保険労務士として登録。給与管理システムの開発を主に担当し、法令面でのアドバイスやユーザー向けセミナーでの講演なども行う。また社内の人財育成にも取り組み、近年ではコロナ禍における組織のあるべき姿について探求している。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。 ※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。