【第5回】やりたいこと/やれること/やってほしいこと

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「やりたいこと/やれること/やってほしいこと」、このタイトルにどんな感想を持たれるだろうか。第4回までを読まれた方であれば、以下の図の上下の関係に、組織の人材ビジョンと個人の在りたい姿を当てはめた方も多いと思う。

基本的にはそうとって頂いて構わない。但し、この段階では3つの位置関係には拘らずに、この3つの言葉から何が見えてくるかを一緒に考えていきたい。

「やりたいこと/やれること/やってほしいこと」

先ずは、それぞれの言葉の意味する所を押えていく。

「やりたいこと」は個人がやりたいこと、意志が込められたものである。実はこれが明確になっていない人が多いのではないか、というのが第4回の問いかけの一つだった。自分が「やりたいこと」、苦労してでも成し遂げたいこと、これがあって初めて内発的な動機づけが生まれるというものである。いろいろ頑張って自己研鑽しているが「何やりたいの?」という問いかけにはストレートに応えられない、そんな人が増えてきている気がする。

「やれること」は、意志の有無とは別に個人が出来ることである。やりたいという意志があるからこそ努力してやれるようになると考えれば、この2つは近づいてくるのかもしれない。ただ現実には一致していないことが多いのではないだろうか。仕事に置き換えてみると分かり易いかもしれないが、「やりたいこと」が、仕事として「やれること」、稼げることではないことの方が多いのかもしれない。

この原因の一つが「やりたいこと」を明確にできていないことだと考えている。両親に言われたからとか、何となくその時の流行でという形で仕事を選ぶと、周囲の期待に応えるために、その中で「やれること」は何かという思考になる。結果、本当に「やりたいこと」が見えてきた時に、身に着けてきた「やれること」の間にギャップが生じていたということになる。

「やってほしいこと」は、周囲からの期待である。個人がもっともパフォーマンスを出すには、この期待の要素の影響がもっとも大きいかもしれない。ただ、現実には「やってほしいこと」をやってもらえている組織は少ないのかもしれない。

少しネガティブな表現を続けたが、これが昨今の状況を表しているのではないか。先の図を修正してこのネガティブな部分を表現すると以下の様になる。

自分の本当のパフォーマンスを発揮するには、「やりたいこと」と「やれること」が重なり合っている方が良い。好きこそ物の上手なれである。
これに周囲からの期待「やってほしいこと」が重なれば、期待を超える力を発揮できる。先ずは自身の現状を認識してみる事から始めて見ることをお勧めする。

現状認識の例

以下は友人の30代営業マンに協力してもらった現状認識の例である。現状でも悪い状態ではないが、まだまだパフォーマンスが出し切れていない部分がある。

例えば、次世代リーダーの振舞を会社からは期待されているが、自身としてはやりたくないし、やれないものととらえている。一方で、頼られる存在であることはやりたいことであり、やれてもいる。そして、お兄ちゃんとしての振舞はやれることと認識している。この3つは共通の要素を持つ行動だが、次世代リーダーという言葉が自身の中で消化されていないために、上手く活かされていない。

また、年度売上の達成は会社の将来にもつながる大切なことだが、“年度”という言葉から短期的なニュアンスが強調されるせいか、お客様とのリレーション構築やロイヤルカスタマーの創出とは紐づけられていない感がある。

会社からのメッセージの出し方を工夫し、個人の解釈を見直していく事で、3つの輪が重なる領域を増やしていく事ができる。
組織の人材ビジョンと個人の在りたい姿の重なりを大きくしていく事で、組織も個人もパフォーマンスを上げていく事が出来る。

人のパフォーマンス=Function of (重なった部分の色の濃さ、面積)
図についての補足だが、色の濃さがパフォーマンス、「やれること」の面積がパフォーマンスを出せる状況の多さとなる。いわゆるI型、T型、π型人間で考えてみると、専門分野での深さ(I、T、πの縦棒の長さ)が色の濃さとなり、縦棒の多さと文字の幅が対応できる分野の広さとなる。

一般的なI型、T型、π型が使われる文脈とは異なるが、この図を使うと以下の様な表現になる。

簡単な図解による分析だが、この図形の上に組織が期待する人材要件や個人の志向、スキル等を整理していく事で目標設定のツールとしても応用可能である。

輪を拡げ、重なりを大きく

自身のパフォーマンスを発揮しきるために、3つの重なりを考えてみる必要はある。その上で大切なことは、それぞれの領域を拡げていく事である。

「やってほしいこと」
広く世の中を見渡し、どんな期待に応えるべきかを模索する。

「やりたいこと」
自分の本然を見つめ直し、自分はこれがやりたい、こう在りたいと素直に言えるものを見つける。

「やれること」
自己実現と期待に応えるために自身の幅を拡げていく。

こうした意識を持ち続けて行動して行けば、誰もが自分の力を発揮しきれるようになる。是非、皆さんにも自己認識を行う事から始めて頂きたい。

執筆者略歴

山田 竜也

電通国際情報サービスを経て、iTiDコンサルティング創業メンバーとして参画。幅広い業界の業務プロセス・意識改革を含めた組織変革コンサルティングを手掛ける。事業ビジョン構築、チーム運営力強化等のコンサルティングのほか、イノベーション人材の育成プログラムを中心とした各種セミナーの講師を務めている。

※このコラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。
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