【第2回】年俸制社員にも割増賃金 法制度情報 公開日:2009年10月16日(金) 最終更新日:2024年12月10日(火) よく『年俸制社員の年俸には、時間外労働や休日労働の割増賃金が当然含まれる』という話を聞きますが本当なのでしょうか?今回の改正により、時間外労働が60時間を超えたとしても50%以上の割増賃金を支払う必要はないのでしょうか? 目次1.年俸制社員の割増賃金2.年俸制社員の割増賃金の計算方法 1.年俸制社員の割増賃金 年俸制社員には割増賃金を必要としないと勘違いされている企業も多いですが、年俸制社員にも割増賃金の支払が必要です。 賃金支払の形態として、時給制があり、月給制があり、年俸制があるだけであり、各支払い形態とも割増賃金の支払いが当然必要です。年俸制だけ例外などということは法律のどの条文探してもどこにもありません。 ただし、年俸制の契約をする時点で「年俸制には時間外労働等の割増賃金を含む」としてあり、例えば、所定外労働時間の何時間分の割増賃金なのか、計算方法等を含め明確な根拠が示されている場合は、年俸に含めることも可能です。 この場合は、「割増賃金の基礎となる賃金」の時間単価がいくらで、割増賃金率に所定外労働時間数を乗じて計算した金額がいくら、というようなことが年俸制の契約の中に示されており、その差引額が年俸制における所定内労働時間における年俸額であると明確に示されていることが必要です。 また、示された時間分を超えて所定外労働があった場合は、当然ながら、その超えた分の割増賃金を別に支払う必要があります。 次の例は、『年俸制に時間外労働の割増賃金が含まれている』としていた企業が、元社員から訴えられ、『年俸制に時間外労働の割増賃金は含まれているとは認められない』として企業が負け、時間外労働の割増賃金を支払わされた例です。 裁判例 <賃金は年俸制で時間外労働手当のほか賞与等も含まれるとなっていたところ、本件年俸制は時間外割増賃金分を本来の基本的部分と区別して確定できないから労働基準法37条1項に違反しているとされて時間外割増賃金等の支払請求の一部が認容された事例> 年俸制を採用することによって、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならないし、そもそも使用者と労働者との間に、基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり、使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても、労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから、基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては、これを同法に違反するとまでいうことはできないが、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は、同法同条に違反するものとして、無効と解するのが相当である。 そうすると、上記認定事実によれば、被告における賃金の定め方からは、時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別して確定することはできず、そもそもどの程度が時間外割増賃金部分や諸手当部分であり、どの部分が基本給部分であるのか明確に定まってはいないから、被告におけるこのような賃金の定め方は、労働基準法37条1項に反するものとして、無効となるといわざるを得ない。 したがって、被告は、原告に対し、時間外労働時間及び休日労働時間に応じて、時間外割増賃金等を支払う義務がある。 (創栄コンサルタント事件 平成14年5月17日 大阪地裁) さて、もう1つ。先ほど文中で「割増賃金の基礎となる賃金」と記載しましたが、年俸制社員の「割増賃金の基礎となる賃金」は、どのように計算するのでしょうか? 2.年俸制社員の割増賃金の計算方法 年俸制社員の「割増賃金の基礎となる賃金」は、年俸÷12月で計算します。では、年俸制の契約時「賞与」と称して支給するものがあった場合は、どうなるのでしょうか? 例えば、年俸600万円の契約において、 給与 30万円×12月=360万円 賞与 120万円×2回=240万円 合計600万円といったケースです。 この場合は、30万が「割増賃金の基礎となる賃金」となるのでしょうか? 答えは、NOです。 600万円÷12月=50万円が「割増賃金の基礎となる賃金」となります。 年俸制の場合は、賞与と称して支給されるものも含めて計算することになります。 「えっ?賞与は割増賃金の基礎としないんじゃないの?」と思った貴方! 勉強していますね。 そうです。本来は、「賞与」というものは「割増賃金の基礎となる賃金」には含まれません。では、なぜ、ここでは「賞与」と称しているものまで含めるのでしょうか? 労働基準法施行規則第21条には、割増賃金の基礎となる賃金から除外される賃金として以下のように規定しています。 (1)家族手当 (2)通勤手当 (3)別居手当 (4)子女教育手当 (5)臨時に支払われた賃金 (6)1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金 (7)住宅手当 (6)に「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とあります。これが、一般的には賞与等とされています。この条文により、本来「賞与」というものは「割増賃金の基礎となる賃金」には含まれません。 しかしながら、「賞与」とはどういったものでしょうか?「賞与」は、あらかじめ120万円といったようにはっきりと決められるようなものなのでしょうか? 「賞与」とは、会社の業績や本人の成績等に応じて支払われるものであり、支払時期になり初めて、金額が明確になるものですよね。あらかじめ金額が明確になっているものは「賞与」と称しても「賞与」としての扱いはせず、これは賃金となるのです。 通達 割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金の1つである「賞与」とは、その支給額が予め確定されていないものをいい、支給が確定しているものは「賞与」とみなされないとしているので、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計して予め年俸額が確定している場合の賞与部分は上記「賞与」に該当しない。したがって、賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要がある。 よって、決定された年俸額の12分の1を月における所定労働時間数(月によって異なる場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除した金額を基礎額とした割増賃金の支払いを要し、就業規則で定めた計算方法による支払額では不足するときは、労働基準法第37条違反として取り扱うこととする。 (平成12年3月8日 発収第78号) 先ほどの例で言えば、30万を「割増賃金の基礎となる賃金」として計算することは、法令違反です。600万円÷12月=50万円で計算したものを「割増賃金の基礎となる賃金」とすることになります。間違わないようにして下さいね。 コンプライアンス!法令遵守です。 どうですか?参考になりましたか?割増賃金を計算する際の注意点については、次回以降もまだまだ続きます。次回も是非参考にして下さいね。 執筆者略歴 奥村 禮司氏 新事業創造育成実務集団代表、社会保険労務士、CSR労務管理コンサルタント、労働法コンプライアンスコンサルタント。上場企業や外資系企業など多数の企業の顧問として、雇用管理・労務管理などの指導、相談に携わる。また、労働法の講演会や執筆などのほか、産業能率大学総合研究所兼任講師、株式会社きんざいの講師としても活躍中。 ※記事内容に関するお問い合わせにつきましては、お受けすることができませんのでご了承ください。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。