組織サーベイの形骸化 第3回 ~“サーベイを「行動」へ” 現場を主役にする対話と文化づくりの実践論~ 人事キーワード・ノウハウ連載 公開日:2026年01月28日(水) 多くの企業で導入されている「組織サーベイ」。従業員の声を可視化し、組織の課題を明らかにするための有効な手段として活用されています。しかし、実際には「時間とコストをかけたのに、現場は何も変わらなかった」と感じたことはありませんか? 最終回となる今回は、組織サーベイをただの分析で終わらせない、変革につなげるための実践論です。サーベイ結果を「管理職への通知表」ではなく「対話のきっかけ」に変える方法とは。1on1やワークショップで現場を巻き込み、称賛文化を醸成する具体的なステップを、成功事例を交えて解説します。 目次最大の壁は「分析」から「行動」への移行管理職を”変革のパートナー”にするための巻き込み術「対話型組織」への転換点―1on1とチーム内ワークショップの実践法“仕組み”で浸透させる称賛と心理的安全性まとめ―サーベイを「定点観測」から「組織のOS」へ 最大の壁は「分析」から「行動」への移行 どれほど優れた分析レポートを作成しても、それが具体的な行動に結びつかなければ、サーベイは「やって終わり」の儀式から抜け出せません。 多くの場合、課題解決の責任が人事部門に集中し、現場の管理職や従業員が「他人事」として傍観者になってしまうことが、行動を阻害する最大の壁となります。 組織変革の主役は、あくまで日々の業務を遂行する現場の従業員であり、部下と向き合う管理職です。人事部門の役割は、全ての課題を単独で背負うことではありません。現場が自律的に課題解決に向けて動き出すための「触媒」となり、そのプロセスを支援することにあります。ここからは、分析結果を現場の具体的な行動へと転換するための実践的なアプローチを探ります。 管理職を”変革のパートナー”にするための巻き込み術 管理職は現場の組織運営の要です。しかし彼ら自身が日々の業務に追われ、疲弊しているケースも少なくありません。 このような状況で、サーベイ結果を一方的に「通知表」として渡し、「あなたのチームのスコアが低いので改善しなさい」と指示するアプローチは、ほとんどの場合、反発や防御的な態度を引き起こすだけです。これは真の対話を閉ざし、管理職に表面的な改善策を取らせる原因となります。 より効果的なアプローチは、管理職を「説明責任を負う対象」から「課題解決を支援する対象」へと位置づけを変えることです。人事は監査役ではなく、コンサルタントとして機能するべきでしょう。 たとえば、こんな風に投げかけてみてはどうでしょうか。 「このデータは、あなたのチームが優先順位の明確さに課題を感じていることを示唆しています。これは多くのチームが直面する難しい課題です。何が原因でこうなっているのか、我々として何かサポートできることはないか、一緒に考えていきませんか?」 このようなアプローチは、管理職の心理的安全性を確保し、彼らを問題解決のパートナーとして巻き込む第一歩となります。人事の役割は、スコアを監視することではなく、管理職がチームと対話し、行動計画を立てるためのスキルやリソースを提供することにあるのです。 「対話型組織」への転換点―1on1とチーム内ワークショップの実践法 組織の変革は、質の高い対話から始まります。サーベイ結果は、その対話を開始するための絶好の「共通言語」になり得ます。しかし、現場の管理職がこうした対話を効果的に進めるには、人事部門からの戦略的な支援が不可欠です。ここでは、3つの実践法をご紹介します。 ①1on1ミーティングの支援体制構築 人事部門は、管理職が効果的な1on1を実施できるよう、以下の支援を提供することが重要です。 まず、サーベイデータの読み解き方と活用法に関する研修を実施します。単にスコアを共有するのではなく、「チームとして『成長機会』のスコアが低いですが、あなた自身は今の仕事やキャリアについてどう感じていますか?」といった具体的な問いかけ例を提示し、管理職が部下との対話を深められるよう支援します。 さらに、1on1で得られた個別の声を組織課題として集約し、全社的な施策に反映させる仕組みを構築することで、管理職の負担を軽減しながら、組織全体の改善につなげることができます。 ②チーム内ワークショップの企画・運営支援 チーム内ワークショップの成功には、人事部門による以下のサポートが効果的です。 ワークショップの設計段階では、サーベイ結果の共有方法やファシリテーション技法に関するツールキットを提供します。「この結果を受けて、私たちのチームをより良くするために、明日から具体的に何ができるか?」という問いを中心に据えた対話プログラムのテンプレートを用意し、管理職が自信を持って進行できるよう支援します。 また、初回のワークショップには人事担当者がファシリテーターとして参加し、管理職と共同で運営することで、実践的なスキル移転を図ることも有効です。このプロセスを通じて、従業員は課題を「自分事」として捉え、管理職は対話型リーダーシップを身につけることができます。 ③継続的な改善サイクルの構築 人事部門は、各部門で実施された1on1やワークショップから得られた知見を集約し、ベストプラクティスとして全社に展開する役割を担います。国内の成功事例においても、サーベイ結果を起点とした地道な対話の積み重ねと、人事部門による継続的な支援が、従業員の不満を解消し、離職率の改善に直結したケースが報告されています。 このように、人事部門が現場の管理職を「対話の実践者」として育成・支援することで、組織全体に対話文化を根付かせることが可能となります。 “仕組み”で浸透させる称賛と心理的安全性 エンゲージメントは、単発のイベントや施策で持続的に高まるものではありません。日々の業務の中に自然と埋め込まれ、無意識に行われる「文化」として醸成される必要があります。その鍵となるのが、「称賛」と「心理的安全性」を育む仕組みづくりです。 サンクスカードやピアボーナス、チャットツールでの感謝のスタンプなど、従業員同士が互いの貢献を手軽に認め、称賛し合う仕組みは、ポジティブな人間関係を育み、組織への貢献意欲を高めます。ある国内企業では、従業員同士が感謝を伝え合う「サンクスプレゼント活動」を導入し、コミュニケーションの活性化に繋げています。 また、心理的安全性の醸成は、制度以上にリーダーの行動に大きく依存します。特に、リーダーが自らの弱みや過去の失敗談を率先して共有することは、「このチームでは失敗しても非難されない」という強力なメッセージとなります。 メンバーが安心して挑戦できる風土を育む上で、これほど効果的な方法はありません。組織開発施策は、こうした日々の行動変容を促す文化的な土壌づくりと一体で進めるべきです。 まとめ―サーベイを「定点観測」から「組織のOS」へ 成功している企業は、サーベイスコアの向上を単独の人事施策として捉えるのではなく、優れた組織運営の「結果」として位置づけています。 彼らが注力するのは、明確な目標設定、従業員への権限移譲、リーダーシップからの透明性の高いコミュニケーション、日々の業務に組み込まれた称賛といった、基本的な経営活動そのもの質を高めることです。サーベイは、その組織システムの健全性を測るための、あくまで一つの指標に過ぎません。 人事責任者の役割は、「サーベイスコア向上担当」になることではありません。組織全体の「OS(オペレーティングシステム)」が、従業員の活力を自然に生み出すように設計されているかを確認し、改善を働きかける戦略的パートナーとなることです。 エンゲージメントメントサーベイやパルスサーベイなどの各種組織サーベイを活用し、従業員の声を継続的に聴き、改善のサイクルを回し続けることが不可欠です。 本連載で示した視点と技術が、貴社のサーベイを形骸化した儀式から脱却させ、持続的な組織変革を駆動するエンジンへと進化させる一助となれば幸いです。 執筆者略歴 斉藤 雅良 株式会社電通総研 HCM本部 HCM戦略コンサルティング部 株式会社電通総研入社以来、主に金融機関様向けの業務・人事・組織構造改革や、そのシステム 開発プロジェクトに多数従事。 近年は、業界問わず人事領域全般におけるコンサルティングプロジェクトに複数参画し、2023年5月より ローンチされたトータルHRソリューション「HUMAnalytics」と、人事基幹システム「POSITIVE」の周辺 サービスに関する企画・推進の統括責任者として、より多くの企業の人的資本経営実現をサポートしている。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。 ※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。