【第1回】人事DXは「管理」から「意思決定支援」へ

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― 海外で注目を集める Talent Intelligence とは

ここ数年、「人事DX」という言葉はすっかり一般化しました。
多くの企業でHRシステムが導入され、社員データの整理や可視化が進んでいます。
一方で、経営や人事の現場からは、次のような声が絶えません。

・タレマネは入れてみたが、このデータをどうすればいいのかわからない
・社員からの手上げと経営からの事業戦略をどう結びつけていけばいいかわからない
・どこにどんな社員がいるか、実際に持っているスキルといったレベルではわからない
・配置や育成が、いまだに“勘と経験”から抜け出せない

これは個別企業の問題ではなく、世界共通で起きている構造的な課題です。
実は今、グローバルのHR Techは大きな転換点を迎えています。
それが
「レコード(記録)から、インテリジェンス(判断支援)へ」
というパラダイムシフトです。

ERP・タレントマネジメントは「正しかった」。しかし、それだけでは足りなくなった

最初に強調しておきたいのは、ERPやタレントマネジメントシステム(TMS)が間違っていたわけではない、という点です。

・人事情報を正確に管理する
・評価・等級・異動履歴を一元化する
・労務や制度運用を効率化する

これらは企業経営にとって不可欠であり、「System of Record(記録のためのシステム)」として、
これまで大きな価値を発揮してきました。
しかし、企業を取り巻く環境は大きく変わってきています。

・事業ポートフォリオの変化スピードが極端に速い
・必要とされるスキルが、毎年のように変わる
・採用だけでは人材が足りず、リスキリングが前提になる
・キャリア自律が進み、社員の期待も変化している

この環境下で経営や人事に求められているのは、「何が起きたか」を正確に把握することではなく、「これから何をすべきか」を判断できる「System of Intelligence(判断支援のためのシステム)」です。

(システム役割比較図)

海外で広がる「Talent Intelligence」という考え方

こうした背景の中、海外で急速に広がっているのが、Talent Intelligence(タレントインテリジェンス)という概念です。
Talent Intelligenceとは、簡潔に言えば『あらゆる人材データを横断的にスキルとAIで解析し、配置・育成・採用・リスキリングといった意思決定を支援する仕組み』です。
さらに踏み込んで大きく言えば、『経営戦略に合わせて動的に人的ポートフォリオを最適化する仕組み』です。
ポイントは、「データを蓄積すること」や「見える化」そのものではありません。
意思決定に直接つながる“判断支援”であることにあります。

たとえば、以下のような問いに答えるためのアプローチです。

・どのスキルが、どの事業で、いつ不足するのか
・採用すべきか、育成すべきか、配置転換で対応できるのか
・育成であれば、誰にどのようなスキル獲得を目的として、どのコンテンツを学習させるべきか
・今いる社員の中で、次の成長領域に適応できるのは誰か
・各社員にとって、どのような育成・経験が最適なのか

世界的なHR Tech研究者であるJosh Bersin氏は、「Talent Intelligenceは、HR Techの次の10年を定義する」と述べています。
実際、タレントインテリジェンス関連市場は2024年から2035年にかけて年率約12%で成長し、2035年には5兆円規模に達すると見込まれています。

(*海外におけるAIベースHR Tech企業のカオスマップ) 

日本企業で特に深刻な「スキルの見えなさ」

このテーマは、日本企業においてさらに切実です。

・職能・等級・年次といった情報は揃っている
・しかし「実際に何ができるか(スキル)」は曖昧
・部署ごとにスキル定義がバラバラ
・逆にホールディングスで定義しているが、個社ではざっくりすぎて使えない
・人事が全社を俯瞰して把握できない

その結果、

・適材適所が進まない
・社内にいるはずの人材を外部から採用してしまう
・本人も「なぜこの配置なのか」に納得できない
・自分の希望とするキャリアが会社の中にあるのか、わからない
・「学びなさい」と言われても、何を学べばいいかわからない

といった状況が生まれています。

海外でTalent Intelligenceが注目されている背景には、スキルを共通言語として扱えなければ、戦略的人材マネジメントは成り立たない、という共通認識があります。

「管理」から「判断」へ ― Talent Intelligenceがもたらす変化

管理から判断支援へと変わらないといけない前提は、「見える化されてもデータ量が膨大すぎて人間の脳では解析できない」ということです。
皆さんの会社に社員は何人いらっしゃいますでしょうか?
その方々、それぞれに複数の職務経歴、評価、希望するキャリアがあり、企業にはそれぞれ無数のポジションや求人、ラーニングコンテンツなどが存在します。
より詳細に言えば下記が例です。

(人事のデータ図) 

つまり、「データの保存・見える化を目的とする人事」から、「判断をする人事」へのシフトを行なっていくという認識の変化を行うことが重要となります。
そしてその判断は無数の要素解析を得意とするAIに任せ、人間は人間の感覚を元に最終決定するということが仕事となります。
既に同様のお取り組みを支援させていただいている企業もクライアントの中には多くいらっしゃいます。

企業様によってフォーカスしたい部分は、違っていますが、それらの一例をご紹介します。

◉大手IT企業様(会社規模:グローバル10万人)
 ➤社内における最適配置や流動化施策をAIで代替
 ➤社員の公募制度支援・キャリア自律支援
 ➤パーソナライズされたラーニングの実現

◉大手製造業企業様(会社規模:グローバル20万人)
 ➤あらゆる拠点・部署における社員のスキルベースでの把握
 ➤新規事業に対する最適人員の配置のAI Agentによる提案
 ➤事業構造の変化に合わせた人員の異動のAI Agentによる提案
 ➤早期退職対象者に対するセカンドキャリア支援の高度化
 ➤スキルのAIインタビューによる深掘り支援

◉大手金融企業様(会社規模:グローバル2万人)
 ➤全社員のスキルの見える化
 ➤社内全ポジションのスキルベース化
 ➤キャリア自律支援
 ➤ポジションやスキルベースでの外部給与分析

ただ現在は「AIは活用したいが、何をどのように進めればいいかわからない」という方が多いのではないかと思います。
実際に私たちが独自に収集分析したデータでは現在の日本のエンタープライズ企業におけるAI導入のステージは下記の通りとなっております。

*表中にあるBuilt on AI型とは最も進んだAIを基盤としたHRシステムを指します。ソフトウェアにAIを載せていくという発想ではなく、AIをベースとしてその上にソフトウェアを載せていくという発想により構築されているAI Nativeなプロダクトを指します。

(現在の日本大手企業におけるAIシステム導入状況) 

次回以降のトピックでは、タレントインテリジェンスの仕組みや、AI活用において大切になるポイント、落とし穴、活用ケースなど、具体的な事例を含めてお話します。

執筆者略歴

国本和基

freecracy株式会社
代表取締役社長兼CEO

米国オクラホマ州立大学卒業後、アビームコンサルティング入社。メガバンク・事業会社にて財務及びIT領域においてコンサルティングを行う。大手事業会社に転職後、PMとしてヨーロッパでのM&Aや東南アジアでのERPシステム導入プロジェクトを行う。その後ベトナムにて教育・メディア・IT事業を行うKijin Edutainmentを立ち上げ4年間の事業運営後、日系大手教育企業へ売却。渋谷を拠点とするHRTechスタートアップの東南アジア拠点を立ち上げるも、自分のサービスを作る為退社。
HRTechに特化した2社目のスタートアップであるfreecracyにて、データドリブンな採用プラットフォーム『freeC』をはじめ、優秀エンジニアのみの開発事業『DX Studio』、Built on AI型タレントインテリジェンスプラットフォーム『TalentsForce』を運営。
米国公認会計士。
著書:『2030年の人事部』、『エンジニアリソース革命』 

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このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。