労働経済白書が示す持続的な賃上げの道筋 人事キーワード・ノウハウ 公開日:2025年01月14日(火) 2023年版の労働経済白書では、日本の賃金動向とその背景を詳細に分析し、持続的な賃上げを実現するための具体的な道筋を示しています。 本コラムでは、白書のデータを基に、賃上げの現状と課題、そして持続的な賃上げを実現するための方策について解説します。 目次賃上げの現状と課題賃上げの経済効果持続的な賃上げに向けた方策企業や人事担当者として行うべきことまとめ 賃上げの現状と課題 労働経済白書によると、日本の名目賃金は1990年代後半以降、ほとんど伸びていません。2022年の名目賃金は、1997年の水準とほぼ同じであり、約25年間にわたり実質的な賃金上昇が見られない状況です。その背景には、企業の利益率の低下や労働市場の硬直性などが挙げられます。特に中小企業では、価格転嫁が難しく、賃上げが進まない状況が続いています。さらに、グローバル化や技術革新の進展により、企業はコスト削減を迫られ、賃金の上昇が抑制される傾向にあります。 第2-(1)-1図 一人当たり名目労働生産性・名目賃金の推移|令和5年版 労働経済の分析 -持続的な賃上げに向けて-|厚生労働省 (mhlw.go.jp) また、労働市場の硬直性も大きな課題です。日本の労働市場は、正社員と非正社員の二極化が進んでおり、非正社員の賃金は正社員と比べて大幅に低い状況が続いています。例えば、非正社員の賃金は正社員の約70%にとどまっているというデータがあります。このため、全体の賃金水準が上がりにくい状況が続いています。さらに、労働者の移動が少ないため、賃金の上昇圧力が弱まっています。 これらの課題を解決するためには、企業の収益力を向上させるとともに、労働市場の柔軟化を図る必要があります。具体的には、企業が新たなビジネスモデルを導入し、収益を増やすことが求められます。また、労働者のスキルアップや再教育を促進し、労働市場の流動性を高めることも重要です。 賃上げの経済効果 賃上げは、労働者の生活水準を向上させるだけでなく、消費の拡大を通じて経済全体に好影響を与えます。賃金が上がることで、労働者はより多くの消費を行い、これが企業の売上増加につながります。結果として、企業はさらに投資を行い、経済全体が活性化します。 第2-(2)-9図 賃金等がマクロの消費に与える影響|令和5年版 労働経済の分析 -持続的な賃上げに向けて-|厚生労働省 (mhlw.go.jp) また、賃上げは企業にとってもプラスの効果をもたらします。賃金が上がることで、従業員のモチベーションが向上し、生産性が高まります。さらに、賃金が高い企業は優秀な人材を引きつけやすくなり、離職率の低下にもつながります。これにより、企業は長期的に安定した成長を遂げることができます。 第2-(2)-7図 賃上げで企業が実感する効果|令和5年版 労働経済の分析 -持続的な賃上げに向けて-|厚生労働省 (mhlw.go.jp) 一方で、賃上げにはコストが伴います。特に中小企業にとっては、賃上げが経営を圧迫するリスクがあります。このため、賃上げを実現するためには、企業の収益力を向上させるとともに、政府の支援が不可欠です。例えば、税制優遇や補助金の提供などが考えられます。 持続的な賃上げに向けた方策 持続的な賃上げを実現するためには、以下のような方策が必要です。 企業の収益力向上 企業の収益力を向上させるためには、まず新たなビジネスモデルの導入が重要です。例えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、業務効率を高めることでコスト削減を図ります。また、グローバル市場への進出や新製品・サービスの開発も収益増加に寄与します。さらに、従業員のスキルアップを支援し、生産性を向上させることも重要です。これにより、企業は安定した収益を確保し、賃上げの余地を生み出すことができます。 労働市場の柔軟化 労働市場の柔軟化を図るためには、労働者のスキルアップや再教育が不可欠です。政府や企業が連携して、職業訓練プログラムや教育機関との協力を強化することで、労働者の移動を促進します。また、テレワークやフレックスタイム制度の導入により、働き方の多様化を推進し、労働市場の流動性を高めます。さらに、非正社員の待遇改善や正社員化を進めることで、全体の賃金水準を引き上げることが可能です。 政策支援 政府による政策支援は、持続的な賃上げを実現するための重要な要素です。例えば、税制優遇措置や補助金の提供により、企業の賃上げを後押しします。また、最低賃金の引き上げや労働者の権利保護を強化する施策も必要です。さらに、労働市場改革を推進し、労働者の移動を容易にするための法整備も重要です。これらの政策支援により、企業と労働者が共に成長し、持続的な賃上げを実現することができます。 このように、持続的な賃上げを実現するためには、企業の収益力向上、労働市場の柔軟化、そして政策支援が不可欠です。企業は新たなビジネスモデルや技術革新を活用し、収益を増やす努力が求められます。労働市場の柔軟化では、スキルアップや再教育、働き方の多様化が重要です。政府の政策支援としては、税制優遇や最低賃金の引き上げ、労働市場改革が必要です。これらの方策を総合的に実施することで、持続的な賃上げが可能となります。 企業や人事担当者として行うべきこと では、企業や人事担当者は、持続的な賃上げを実現するために、具体的に何を行うべきなのか?取り組むべき施策について、いくつか列挙いたします。 従業員のキャリア教育 企業が従業員に対し、定期的な研修やスキルアップの機会を提供し、従業員の成長をサポートします。これにより、従業員のモチベーションが向上や、生産性の向上が期待できます。 参考:CAREERSHIP・まなびプレミアム|電通総研 人事ソリューションサイト 公正な評価制度の導入 業績や貢献度に基づいた公正な評価制度を導入し、優れた成果を上げた従業員に対して適切な報酬を提供します。これにより、従業員のやる気を引き出し、企業全体のパフォーマンス向上を図ります。 参考:人材戦略立案コンサルティング|電通総研 人事ソリューションサイト 働きやすい職場環境の整備 ワークライフバランスを重視した柔軟な働き方を推進し、従業員が働きやすい環境を整えます。例えば、リモートワークの導入やフレックスタイム制度の活用などが考えられます。 福利厚生の充実 健康管理やメンタルヘルスサポートなど、従業員の福利厚生を充実させることで、従業員の満足度を高めます。これにより、離職率の低下や優秀な人材の確保が期待できます。 これらの取り組みを通じて、企業は持続的な賃上げを実現し、従業員の満足度と企業の競争力を高めることができます。 まとめ さてここまで、「労働経済白書が示す持続的な賃上げの道筋」と題して、賃上げの現状、課題、経済効果、方策について簡単に解説して参りました。 労働経済白書は、持続的な賃上げを実現するための具体的な道筋を示しています。企業の収益力向上や労働市場の柔軟化、政策支援など、多角的なアプローチが必要です。今後も、賃上げに向けた取り組みが一層求められるでしょう。 参照・参考 令和5年版 労働経済の分析 -持続的な賃上げに向けて-|厚生労働省 (mhlw.go.jp) 「令和6年版 労働経済の分析」を公表します|厚生労働省 (mhlw.go.jp) 労働経済白書「持続的賃上げ」を分析 | 労基旬報オンライン (roukijp.jp) 「令和5年版労働経済白書~持続的な賃上げに向けて~」を公表(厚労省) |日商 Assist Biz (jcci.or.jp) 令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省 (mhlw.go.jp)