事例から学ぶ「風通しのいい職場」の条件と心理的安全性 注目の記事 公開日:2025年03月06日(木) 最終更新日:2025年03月07日(金) 離職率や従業員エンゲージメント、組織風土にも直結し、近年ますます重要視されている「心理的安全性」。 このコラムでは、心理的安全性の定義や重要性を解説するほか、OpenWork 働きがい研究所が発表した「新卒入社の若手社員がおすすめする企業ランキング」※1 で1位を獲得した電通総研における「心理的安全性」の実現方法について、実践事例を交えて詳しくご紹介します。 目次働く環境における、心理的安全性とは?なぜ心理的安全性が重要なのか心理的安全性を高める実践事例~OpenWork 働きがい研究所「新卒入社の若手社員がおすすめする企業ランキング」1位獲得~まとめ 働く環境における、心理的安全性とは? 心理的安全性とは、チーム内で誰もが自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態を指します。この概念は、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱したもので、日本でも近年注目されるようになりました。 会社組織の心理的安全性において特に重要なのは、単に従業員が仲の良い「ぬるま湯」の状態を目指すのではなく、一人一人が失敗を恐れずに挑戦でき意見交換が活発に行われる「風通しのよい」状態を目指し、組織の生産性や創造性を向上させることとされています。 なぜ心理的安全性が重要なのか 会社組織とは年齢、性別、価値観が多様な人々が集まる環境です。心理的安全性が確保されない状況では、せっかくの良いアイデアが実現されなかったり、一部の従業員のみが決定権を持った結果、偏った決断が下されたり、会社組織の中でさまざまな問題が起こりえます。そのような状況は、企業の社会的信頼を低下させるような重大なトラブルを招くだけでなく、従業員一人一人の働きたいという意欲をそぐ結果にもつながりかねません。 またGoogleの調査「プロジェクト・アリストテレス」によると、心理的安全性の高いチームは、他のメンバーのアイデアを上手に活用できるだけでなく、メンバーの離職率が低くなることが分かっています。つまり、心理的安全性が高い環境は、従業員が他メンバーと協調しあい生産性を向上させられることに加え、その組織に長くとどまりたいと従業員に感じさせる動機にもなりうるのです。 心理的安全性を高める実践事例~OpenWork 働きがい研究所「新卒入社の若手社員がおすすめする企業ランキング」1位獲得~ では、人が働く環境で心理的安全性を高めるためには何が必要なのでしょうか。全社単位や、部署単位での取り組みなど様々なアプローチ方法がある中、ここでは電通総研の全社的な取り組みと、同社のHCM事業部での、実施例をご紹介します。 全社的な取り組み 電通総研では、これまでに従業員エンゲージメントを向上させるために以下のような施策を行ってきました。 同性・事実婚パートナーを配偶者と同等に扱う制度の導入 2024年より基本給を平均10.7%・最大12%引き上げ テレワーク勤務制度や裁量労働制など柔軟な働き方を支援する制度の導入 出産を控えた社員や子育て中の社員、看護・介護中の社員が継続して働き続けることができるように、仕事と家庭の両立を支援する制度の導入 ドナー休暇や教養休暇など、社員の心身の健康確保や創造力の強化等のために、豊かなライフスタイルの実現を目指す多様な休暇制度の導入 品川の本社ビルにマッサージルームを整備するなど、社員が最大限に能力を発揮できるよう、心身ともに健全で健康であることをサポートする施策を実施 (参考:https://www.dentsusoken.com/news/release/2024/1001.html) これらの施策は、一見すると心理的安全性の向上に直結する内容ではないでしょう。しかし、全社的な施策において重要なのは、まずは従業員エンゲージメント全般を向上させるような施策を実行することによって、従業員同士の関係性を育む土壌を生み出すことなのです。 なぜなら、その土壌なしにいきなり心理的安全性向上だけを目指した施策を講じても、従業員一人一人に受容されにくく、結果として最大効果を生まない可能性があるからです。 電通総研の事例は、具体的な施策が効果を生みやすい土壌が出来上がった上で部署単位での取り組みを組み合わせたことで、効率的に心理的安全性の高い環境を生み出すことができた例と言えるでしょう。 事業部単位での取り組み 全社単位よりも細かな単位での取り組みとして、ここでは電通総研のHCM事業部における取り組みをご紹介します。 STEP1 組織の現状把握 HCM事業部では、以前は事業部内での関係性や働き方に関する詳細な調査は行われていませんでした。そこで、まずは現状を知るために、以下の内容を実施しました。 部署横断組織「WST(Work Style Transformation)」の立ち上げ 社員に対するアンケート調査 「WST(Work Style Transformation)」(以下、WST)とは、名前の通り、社員一人一人の働き方を向上させていくことを目指した組織です。営業、技術担当など様々な部署から運営メンバーを選出し、事業部のパーパスである「ヒトを信じ、日本の「はたらく」を変える」をスローガンに活動を開始しました。 そしてWST主導で実施したアンケート調査によって、社員の働き方に関する課題の解決方法の一つとして、心理的安全性の向上が重要であると考えました。 STEP2 施策の検討と実施 続いて、STEP1で実施したアンケート結果をもとに、課題を解決するための具体的な施策の検討を開始しました。アンケートはユニット(部署)ごとの内訳、年代別での内訳を中心に分析し、以下のような結果が得られました。 <ユニット別> <年代別> この結果から、各ユニット、各年代ともに課題感が強かった「縦割り・相互理解不足」の解消として以下の施策を実施しました。 「タグトーーク!」と題した、テーマ別リレー投稿 懇親会の実施 新規参画メンバーの紹介動画「MEET&GREET」の作成 施策1: 「タグトーーク!」と題した、テーマ別リレー投稿 社員同士が持っている共通の趣味を、ハッシュタグを用いて表現し、そのタグをテーマに、リレー形式で自由な投稿をする取り組みです。 業務では知りえないプライベートな一面を垣間見ることで話題につながったり、コミュニケーションが円滑に取れるようになったりすることを目指しています。 施策2:懇親会の実施 HCM事業部の全体会議後、社内のフリースペースを利用して懇親会を実施しました。食事やゲームなどを通じて、普段の業務上ではかかわりの少ない社員同士も交流を深めたほか、席の配置を出身地域ごとに分けることで、様々な部署や年代の社員同士が交流できるよう工夫しました。 施策3:新規参画メンバーの紹介動画「MEET&GREET」の作成 中途入社社員を対象に、WST運営メンバーがインタビューをしていくことでパーソナリティを深掘りする「MEET&GREET」という動画を作成しました。こちらも中途入社社員が既存社員と早く馴染むことができるよう比較的ラフな内容としたほか、業務の合間に気軽に視聴してもらうため、1動画当たりの時間も5分程度としました。 STEP3:振り返りアンケートの実施 これらの施策を実行し、実際に成果があったかどうかを再度アンケート実施することにより調査しました。さらにそのアンケート結果を分析し、実施効果について振り返りを行い、新たな施策の立案にもつなげています。アンケートについては、今後も半年に一回のペースで継続実施する予定です。 まとめ 先述のOpenWork 働きがい研究所が発表した「新卒入社の若手社員がおすすめする企業ランキング」※1 では、電通総研が選出された理由として「風通しが良い」「手を上げればやりたいことを積極的にやらせてくれる印象」「自発的に行動する人、コミュニケーション能力が高い人が多いと感じる」など、社内のフラットな環境を評価する声が挙げられていました。 本コラムでは、電通総研で実際に行った様々な施策を通じて心理的安全性の向上を目指していくための具体的なケースをご紹介してきましたが、今後も日本企業が共通して抱える課題である組織の在り方について、電通総研も一企業としてひたむきに取り組みながら、皆様のヒントになるようなテーマをお届けしてまいります。 ※1 提供元:OpenWork 働きがい研究所「新卒入社の若手社員がおすすめする企業ランキング」 https://www.openwork.co.jp/press/2024082001