【第1回】就労証明書のオンライン化の背景と概要

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前回のシリーズでは従業員のライフイベントに関するデジタル化の中でもゼロからシステムを新しく構築する”新しいデジタル化”についてお話ししました。

今回は“新しいデジタル化”の実際の事例として、昨年大きく報道された“就労証明書のデジタル化”について3回のコラムを通じてお伝えします。なお今年9月に政府の方針が変更されたため、変更内容も踏まえてお伝えします。

就労証明書のデジタル化の概要

令和6年4月以降の保育園への入所分より、入園申請で使用される 就労証明書の様式が統一され、提出がオンライン化されます。 今回の「就労証明書のデジタル化」に関する改定では、具体的には、自治体ごとにバラバラであった就労証明書の様式を全国共通で1つの様式に統一するということが行われます。これだけを聞いても今回の改定にどのような背景があり、改定後どのような影響があるのか分かりませんよね。そのためまずは、この改定が行われた背景・経緯について見ていきましょう。
就労証明書が最も使われるのは、 冒頭でも触れた通り、認可保育園等の入園申請に際し、保護者の労働状況を自治体に伝えるため提出するケースです。
就労証明書の作成は企業の担当者が作成することと定められていますが、自治体ごとに様式が異なるため自動化が難しく 、結果として現状の就労証明書作成は、手書きや手入力で行われています。 そのため、担当者の作業負担が非常に大きくなってしまっており、同時に作成の依頼を出す従業員側においても、「依頼を出すにあたり心理的な抵抗感を感じてしまっている」等の声が上がっています。 こうした背景を基に 、経済界や子供を持つ家庭から就労証明書の様式統一やオンライン化に対し大きな要望があり、今回の就労証明書のデジタル化に至りました。

今回のデジタル化について

今回のデジタル化では、こうした企業やご家庭の声に応え、実際の暮らしで役立つシステムを実現するため各省庁が協力しデジタル化に取り組んでいます。 具体的には、様式統一はこども家庭庁が、関連するマイナポータルでのシステム開発はデジタル庁が行い、横串でのデジタル化を行っています。
このように、就労証明書のデジタル化は、デジタル庁主導の下、サイロ化により複雑になってしまった行政システムを横串でデジタル化・統一化し、より使いやすいシステムを実現する取り組みの一つであると言えるでしょう。
しかし、今回のデジタル化が私たちの暮らしや業務に実際にどのような変化をもたらすのかまだ想像しにくいかと思います。そのため改定前と改定後でなにがどう変わるのか、まずは改定前の現状からお話していきたいと思います。

現状の就労証明書作成・提出の流れ

現状の就労証明書作成・提出の流れ

① 従業員が就労証明書の様式を取得する
様式は自治体の窓口・HPや希望する認可保育園から、紙やExcelファイル、PDFファイル等の形で取得できます。また内閣府及び厚生労働省が定めた就労証明書の標準的様式が公開されていますが、実際にこの標準様式を使用している自治体はほとんどなく、各自治体、各々が独自の様式を設定している場合がほとんどです。なお標準的様式は詳細版と簡易版の2種類があります。

② 従業員が人事担当者に就労証明書作成を依頼する

③ 人事担当者が自治体ごとの様式に合わせて就労証明書を作成する
手書きやExcelファイルの編集等で作成を行います。

④ 人事担当者が従業員に作成した就労証明書を交付する

⑤ 従業員が自治体に申請書とともに就労証明書を提出する。
自治体の窓口に持参又は郵送で提出します

実は、就労証明書作成・提出の流れのうち、既にオンラインで行うことができる箇所が存在します。それを可能としているのが、ぴったりサービスです。こちらについても併せて紹介します。ぴったりサービスとは、マイナポータルが提供するサービスの1つです。自治体への手続について、オンラインでの手続検索や電子申請を可能としています。就労証明書の作成・提出に関してぴったりサービスが展開している、以下の通りです。

  • 就労証明書様式取得
  • 就労証明書様式作成
  • 就労証明書提出(厳密には、認可保育所等の利用申込みをぴったりサービスで提出可能であり、申し込みの際に添付する形となる)

現状のデメリット

続いて、現状の就労証明書作成・提出に関するデメリットを見ていきましょう。

① 自治体ごとに就労証明書の様式が異なるため、人事担当者の作成負担が大きい
就労証明書の大半の項目は企業が保持する人事・就業情報を連携できれば記載可能ですが、自治体ごとに様式が異なるため、人事システム等との連携のハードルが高くなっています。その結果、就労証明書の作成を行う場合は、人事担当者が手作業で必要な情報を参照し、記載している場合が多く、作成負担が大きくなっています。実際に弊社の人事担当者に確認したところ、就労実績等、従業員によって記載内容が異なる項目は、一人ひとり集計をして記載しなければならないため大変だという声が聞かれました。

② 不要と思われる記載項目が多い
標準的様式の詳細版には非常に多くの記載項目が存在します。しかしその多くが削除しても問題ないものであるにも関わらず、使用されている場合があり、就労証明書の作成者が本来記載しなくてもよい項目をも記載しなければならない状況にあります。

③ 人事担当者と従業員の間で書類のやり取りが発生し、手続きが煩雑
証明書の作成者(人事担当者)が直接自治体への提出ができないため、作成者が一度、提出者(従業員)に就労証明書を渡す必要があり、手続きが煩雑になってしまっています。

③ 人事担当者と従業員の間で書類のやり取りが発生し、手続きが煩雑
証明書の作成者(人事担当者)が直接自治体への提出ができないため、作成者が一度、提出者(従業員)に就労証明書を渡す必要があり、手続きが煩雑になってしまっています。

④ 就労証明書作成事業者における、ぴったりサービス「就労証明書作成コーナー」の認知度、利用率が低い
日本総研の「就労証明書の標準的な様式の活用による市区町村及び企業等の負担軽減に関する実態調査」(https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102544)によれば、「就労証明書作成コーナー」を利用し各自治体の申請フォーマットを受け取れることを認知している事業者人は就労証明書作成事業者全体の25%程度、利用している事業者人は5%以下となっています。

⑤ 証明書のぴったりサービスでの提出に対応していない自治体が存在する
対応済みの自治体数は内閣府の回答によると令和4年11月22日(火)時点で423にとどまっており、全自治体数の25%以下です。

このように現状の就労証明書作成・提出には様々な問題があります。これを改善すべく、令和6年4月入所分から就労証明書の様式統一化、提出のオンライン化といった改定が行われます。
本稿では改定に至る背景と、改定前の就労証明書作成提出の現状についてお話ししました。次章では改定後、具体的に就労証明書の様式がどのような様式に統一されるのか、また就労証明書作成・提出の流れがどう変わっていくのかについてお話していきたいと思います。また今年9月に発表された政府の方針変更については、次回詳しくお伝えします。

執筆者略歴

大場 実
株式会社電通国際情報サービス
HCM事業部製品企画開発部

新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の法制度改正対応や新機能開発に従事。「実際に使う人の視点に立って、お客様が実際に使って役に立つ製品を作りたい」という思いで日々業務に取り組んでいる。

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※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。