【第3回】企業における就労証明書発行のシステム化 法制度情報 公開日:2023年12月01日(金) 最終更新日:2024年12月10日(火) 第2回のコラムでは、改定後の就労証明書の様式統一化とオンライン提出について触れてきました。またその中で、将来的に新たな提出フローが新設される可能性があることをお伝えしました。では、令和5年9月から受付開始となった令和6年度入所分の様式・提出方式については、どのように対応したらよいでしょうか。第3回のコラムでは、例として、従来型の提出フローに合わせたシステム化のイメージをご紹介します。 目次従来型に合わせたシステム化電子申請に適した人事システムにしていくためにまとめ 従来型に合わせたシステム化 第2回でお話した「改定後の就労証明書の作成・提出の流れ」を振り返ってみると、企業の人事システムで実現すべき部分としては、以下のステップになります。 ① 従業員が人事担当者に就労証明書作成を依頼する ② 人事担当者が就労証明書をExcelファイルで作成する ③ 人事担当者が従業員に就労証明書を交付する それぞれ見ていきましょう。 ① 従業員が人事担当者に就労証明書作成を依頼する現在、従業員が事業者に就労証明書の発行を依頼する場合には、会社のメールや、口頭での申請が基本となっていると思います。しかし、就労証明書を電子ファイルで作成・提出する場合を考えると、依頼自体も企業の人事システムを通して行える仕組みが望ましいといえるでしょう。その際に気をつけたいのが、“依頼主にあたる従業員と、ステップ②で作成するExcelファイルを紐づけること”です。システムとして実現する方法は、各社が導入する人事システムに合わせて行うことになると思いますが、この点に留意して検討していただけるとよいでしょう。また、人事システムによっては既に従業員からの届出や申請を行える機能を搭載しているものもあるかと思います。その場合には、就労証明書発行申請もその一つとして扱うとよいでしょう。そうすることで、従業員側にとってもメールや口頭で依頼するより、利用しやすくなることと思われます。 ② 人事担当者が就労証明書をExcelファイルで作成する第2回のコラムでもお伝えした通り、今回の改正改定で、複数あった就労証明書の様式が統一されました。統一化された就労証明書の様式は、「就労証明書(簡易版)標準的な様式」という名称で、こども家庭庁HPにて公開されています。そのため、企業で就労証明書を作成する場合には、予めこの様式に合わせた形で入力できるようにシステムを準備するとよいでしょう。具体的には、Excel上の記入欄に該当する各セルに対し、システム内で入力した情報を反映できるような対応が必要だと考えられます。また、これまでの就労証明書同様、記載要領も公開されているため、規定にあった入力が行えるよう、入力チェックを設けることも記入漏れのない就労証明書を作成するうえで重要です。他にも、下記のような機能を搭載することにより、改正改定以前の就労証明書発行に比べ、劇的に人事担当者の作成負担を減らすことが可能だと思います。 システム内で管理される従業員情報を初期値として各入力項目欄に設定可能にする 複数の申請を同時に作成・編集できるようにする 企業のシステム外部でExcelにて作成された就労証明書がある場合に、システム内に取り込めるようにする ③ 人事担当者が従業員に就労証明書を交付する作成が完了した就労証明書Excelファイルを返却する方法としては、以下の3つが考えられます。 A.担当者が作成完了後、Excelファイルを出力し、社内メール等で従業員に配布する B.作成完了後、システム内から自動ないしは手動で、発行したExcelファイルを各従業員のメール宛に送信する C.システムに就労証明書出力機能を搭載し、就労証明書作成完了後、各従業員にExcelファイルを出力してもらう Aの場合、従業員それぞれにメールを送信する必要があり、上記の中では最も負担が多いため、実際の運用を考えると、利便性の高さからB、Cの方法が適しているでしょう。 ①~③で記載した内容は一例ですが、このように対応することで、企業のシステム内で、従業員による就労証明書の作成依頼から、電子ファイルの作成・送付までを一貫して行うことができるようになるでしょう。 さて、ここまではあくまで、就労証明書申請に着目したシステム化について考えてきました。では、今後ますます各種申請の電子化が進んでいくと考えたときには、どのような人事システムが、企業にとって理想といえるでしょうか。 電子申請に適した人事システムにしていくために 昨今、様々な労務管理ソフトウェアが企業で導入されています。種類としては大きく2つあり、人事・給与・就業等の情報がまとまって管理されている統合型のシステムと、給与処理・勤怠管理など各機能に特化したシステムが存在します。両者それぞれに長所や短所はありますが、電子申請に適した人事システムを考えると、筆者の個人的な意見としては、「幅広い情報が一元管理されていること」が重要だと考えています。 今回の就労証明書の電子申請対応を例にみても、電子申請の作成において人事担当者の負担が大きいのは、やはり各従業員の個人情報を証明書に反映する作業です。この時、1つのシステム内で管理されている従業員のデータが少ないと、正確な従業員情報を探し入力する手間が多くかかりますが、管理されているデータが多ければ、入力項目に合わせて必要な情報を連携することが可能になります。今回の就労証明書でも、企業情報や従業員の基礎情報のほか、従業員の勤務実績や資格取得の有無といった詳細な情報が求められるため、一元管理されていることは有用であるといえるでしょう。 まとめ さて、これまで全3回に分けて、 “新しいデジタル化”の一つである、就労証明書のデジタル化についてお話ししてきました。実際の事例を通じて、ライフイベントに関するデジタル化に伴い、私たちの業務がどのように変化していくのか、考えていただけたら幸いです。 “新しいデジタル化”には、個人情報をデジタル化し、データとして利活用していくという側面があります。そのため、今後は対応に応じて業務の見直しを行うだけではなく、業務で用いる人事システムにおいて、データをどう管理・連携していくかについても考えていく必要性があると、私たちは考えています。 一方、デジタル化を進める上で避けられないものが、プライバシーの問題や情報漏洩のリスクです。実際に、昨今、マイナンバーに紐づけて様々な情報を収集・活用することに対し、多くの不安の声が挙がっています。しかし、就労証明書のデジタル化に限った例で考えると、今回使うマイナポータルの機能は、あくまで就労証明書の提出を行うための機能であり、特別なにか情報を抽出したり集めたりするものではないため、利用者にとってのリスクは小さいと言えるでしょう。 では、今後のデジタル化についてはどうでしょうか。今回の就労証明書のデジタル化は、前述のようにデータの取り扱いに関して大きなリスクのない事例でしたが、これからのデジタル化においては、マイナンバーカードと保険証の一体化のように、一層データの一括管理や利活用が進んでいくと考えられます。そのような場合、データの利活用による恩恵はある一方で、リスクや不安は増大するかもしれません。”データ利活用によるリスクを減らしつつ、得られる恩恵をいかに最大化していけるか” という課題を、今後はより踏み込んで考えていく必要があるのではないでしょうか。 執筆者略歴 生方 真美 株式会社電通国際情報サービス HCM事業部製品企画開発部 新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の法制度改正対応や新機能開発に従事。「お客様と近い距離で関わり、お客様それぞれのニーズを追求しシステムに反映していけるような技術者になっていきたい」という思いで日々業務に取り組んでいる。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。 ※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。