従業員エンゲージメントを高める実践戦略 ~電通総研HRフォーラム2025から学ぶ~ 人事キーワード・ノウハウ 公開日:2025年10月24日(金) 近年、日本国内では少子高齢化が進み、企業においても慢性的な人材不足が課題となっています。さらに、働き方の多様化により、転職が一般化し、離職率も上昇傾向にあるなか、企業は人材の確保が難しくなり、いま改めて企業の競争力を支える最大の資産は「人」であるとの認識が重要です。 そこで企業成長のカギとして位置づけられているのが「従業員エンゲージメント」です。企業が競争力を保ち、持続的成長を遂げるには、「従業員エンゲージメント」の向上が不可欠なのです。 2025年6月に開催された電通総研 HRフォーラム2025では、「“はたらくを変える”の新常識 ~個を活かす人事~」をテーマに、有識者による最新の知見を共有いただきました。 スポーツチームの育成改革や人的資本経営の実践、ニューロダイバーシティの受容など、個人を尊重しながら組織を強くする人事・組織のあり方が多面的に議論され、そこには「従業員エンゲージメントを高めるヒント」が散りばめられています。 本コラムでは、これらの知見を取り込みながら、エンゲージメント向上の効果と、すぐに実践できる方法をわかりやすく解説します。 目次従業員エンゲージメントとは?従業員満足度との違いなぜいま、従業員エンゲージメントが注目されているのか?「電通総研HRフォーラム2025」で語られた重要テーマ従業員エンゲージメントを向上させる5つの具体策まとめ 従業員エンゲージメントとは?従業員満足度との違い 従業員エンゲージメントとは、社員が「自らの意思で仕事や組織に積極的に関わっている状態」を指し、「自分の仕事や組織に対して自発的に情熱を持ち、力を尽くす姿勢」を意味します。これは単なる働く環境や報酬に対する満足感ではなく、「この会社で働きたい」「ここで成果を出したい」という仕事に対する情熱や、会社への貢献意欲が伴っている点が特徴となります。 よく似た言葉に「従業員満足度(ES)」がありますが、こちらは職場環境や待遇、報酬などの受け身的な評価を意味しており、例えば「職場に満足しているが、特に積極的に働こうとは思わない」社員については、満足度は高いがエンゲージメントは低いといえます。 エンゲージメントとは「気持ちと行動」、満足度とは「状態に対する評価」──まずこの違いを理解することが、従業員エンゲージメント向上を進めるために必要な第一歩となります。 なぜいま、従業員エンゲージメントが注目されているのか? 2025年6月に開催された「電通総研HRフォーラム2025」にて、参加者へ行ったアンケート結果では「はたらくを変える」ために取り組んでいること、「はたらくを変える」ために今後1年以内に取り組みたいこと、また「関心の高いテーマ」においても、第一位はいずれも「従業員エンゲージメントの向上」でした。(前年も同様) 1. 離職率の上昇と人材不足 どんなに優秀な人材を採用しても、定着しなければ意味がありません。特にZ世代以降は「働きがい」や「共感」を重視する傾向があり、エンゲージメントの低い職場では早期離職につながりやすくなっています。 2. リモートワークでの“つながり”の希薄化 リモートワークやハイブリッドワークが定着する中、組織への帰属意識や仲間とのつながりを感じづらい環境も増えています。この「心理的な距離感」を埋めるのが、エンゲージメント向上の取り組みです。 3. 生産性・業績との強い相関 米Gallup社の調査では、エンゲージメントが高い従業員は、生産性が20%以上向上し、欠勤率は37%減少、離職率は59%低下すると報告されています。数字で見ても、企業のパフォーマンスに与える影響は絶大です。 参考:https://media-01.imu.nl/storage/happyholics.com/6345/gallup-2020-q12-meta-analysis.pdf さらに2023年以降、人的資本開示が義務化の流れにあり、企業は「従業員をどう育て、活かし、支援しているか」を投資家や社会に説明する責任を負うようになりました。これは単なる人事施策ではなく、経営戦略そのものとしてエンゲージメントを高めることが不可欠になっていることを意味します。 「電通総研HRフォーラム2025」で語られた重要テーマ 電通総研HRフォーラムで取り上げられたトピックの中でも、とくにエンゲージメント向上に直結するものをピックアップします。 1. 「個を活かす」マネジメント スペインのサッカークラブ・ビジャレアルにおける育成改革の事例(佐伯夕利子氏講演)は強いインパクトを残しました。監督やコーチは「命令する人」ではなく「選手の成長を支援するファシリテーター」となり、選手(部下)との対話や合意形成を重視。組織のヒエラルキー(上下関係)を問い直し、言葉遣いや評価軸を「成果」から「進化」へとシフトする姿勢は、企業におけるマネジメントにも通じるものがあります。 電通総研HRフォーラム2025「スペイン・ビジャレアルにおける人材育成と組織改革」(佐伯夕利子さん) 2. 人的資本経営とデータ活用の潮流 電通総研HRフォーラム2025では、人的資本経営(人的資本を資産とみなし、戦略的に投資・活用する考え方)が大きな論点になりました。基調講演では、ISO/TC 260(人材マネジメント国際標準)、ISSB(国際サステナビリティ基準)などの動向を踏まえ、企業が非財務的価値をどう測定・報告し、組織パフォーマンスにつなげていくかが語られました。 3. 多様性とニューロダイバーシティ 「ニューロダイバーシティ」というキーワードも注目を集めました。発達特性や認知スタイルの違いを弱点ではなく個性と捉え、強みを活かす仕組みづくりは、エンゲージメントの土台となります。多様な個が尊重され、能力を最大限に発揮できる環境は、組織全体の創造性にも直結します。 「ニューロダイバーシティ」は決して特定の人を指すのではなく、すべての人の多様な特性を活かす、という考え方であることを学びました。 4. 働き方・幸福度と帰属意識 日本の幸福度に関する調査結果を述べた講演では、日本の幸福度の低さと「仕事との関係性」の課題が示されました。所属組織への帰属意識や挑戦の機会が幸福感を高め、結果としてエンゲージメントにもプラスに働くというエビデンスは、人事施策を設計するうえで欠かせない点です。 従業員エンゲージメントを向上させる5つの具体策 それではフォーラムの内容から、企業が取り組める具体策を5つの観点でご紹介します。 具体策1. 部下を支援するコミュニケーション POSITIVEは「マルチカンパニー機能」を有しており、複数の法人を1つの人事システム上で一括管理・運用することが可能です。これにより、システム間のインターフェース(IF)構築や管理の手間を大幅に削減でき、導入および運用コストの抑制が可能です。 また、グループ会社へ人事システムの展開導入をする際に親会社の設定情報をコピー展開することが可能です。当該機能を利用し親会社との設定情報の差分のみを修正することで、効率的なグループ展開を実現します。 具体策2.公平で透明な評価制度 社員のモチベーションを保つには、公平性かつ透明性のある人事制度が必要です。成果だけでなく、プロセスも評価基準に設けるのも1つの方法です。上司だけでなく、同僚や部下の視点も取り入れられる360度評価のように、複数の人物が評価する手法もよいでしょう。 具体策3. 成長機会の提供 キャリアの可能性を広げる仕組みづくりも大切です。ただ、むやみに研修コンテンツや制度を拡充するだけでは十分とはいえません。 まずは、現在の自社の制度や仕組みが今の時代の従業員のキャリア開発に沿うものになっているか見直してみましょう。そして、見直す部分や拡充させる部分を明確にしてから取り組んでみるとよいでしょう。 具体策4. 個々が働きやすい環境づくり 多くの企業では、ライフスタイルに合わせた働き方が選べるようになってきました。しかし働きやすさの観点でいうと、個々の強みを活かした人員配置も大切です。すぐに強みを活かせるポジションに移すことは難しいため、まずは従業員の強みを可視化するところから始めてみましょう。 具体策5.「ありがとう」を伝える文化の創出 組織の中で、自らが感謝・尊重されている実感があると組織への愛着も高まります。例えば、従業員同士が感謝の言葉を書いた「サンクスカード」を贈りあったり、社内で表彰する制度を設けたりすることでも従業員の意識の変化が期待できます。 上司が日常的に「ありがとう」を伝えるだけでも組織に良い影響を生み出せるでしょう。 まとめ 従業員エンゲージメントは、企業にとって「成長戦略そのもの」です。 電通総研HRフォーラム2025で示されたように、個を活かすマネジメント、人的資本経営のデータ活用、多様性の尊重、幸福度向上の工夫は、これからの人事戦略に欠かせないのです。 エンゲージメントを高める取り組みは一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、これらの知見をヒントに、企業が自社らしい工夫を積み重ねていけば、社員も組織も確実に進化を遂げることができ、一人一人の幸福度も上がっていくはずです。