【第4回】30代から40代の女性社員が活躍する仕掛けづくり

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組織と個人のパフォーマンスを向上させる取り組み支援

団塊世代の社員が大量に定年退職し始めた2007年前後より、女性活躍推進の取り組みや研修などの問い合わせが急増し、これに対応して、産業能率大学では経営戦略としてのダイバシティ・マネジメント支援を従来以上に強化してきた。

個人や企業、社会においても、これまでの「働き方」を見直そうという機運の高まりで、ここ数年ダイバシティ・マネジメント、女性活躍推進、ワークライフバランスという言葉をよく耳にするようになった。

この理由は、男性の労働人口が減少する傾向が進みつつある現在、優秀な女性社員を経営資源に欠かせない人財として確保したいと考える企業が増えているからであり、その課題として、女性社員が継続就業しやすい労働環境を整えることやより多くの女性社員のポテンシャルを引き上げていくことが挙げられる。

そのうえで、女性社員一人ひとりのパフォーマンスの向上やモチベーションの向上のために企業は何をしたらよいのか?その具体的なソリューションが求められている。

そこで本学では(1)働きやすさ、(2)意欲の醸成、(3)能力向上・発揮、をキーワードに、ワークマネジメント(造語)の実践を推奨している。これは、組織の効率化や働きやすい環境の整備、お互いが学びあい啓発しあう風土づくり、セルフ・エフィカシー(自己効力感)を感じる関係性の構築を可能にする取り組みである。今回と次回のコラムでは、特に女性社員の活躍のために、より具体的な事例とその問題点や育成方法などを紹介する。

まずは、30代・40代の女性社員に「もっと活躍して欲しい」「主体性をもって働いて欲しい」という事例についてみてみよう。

30代〜40代の女性社員の一般社員(実務職・企画職・事務職)の事例から

事例1

変化を望まない30代〜40代(実務職・企画職)
業種:電気機械製造業

ダイバシティ推進の取り組みをスタートするにあたり、まずは現状把握のため、全社員(約3,700名内800名女性社員)を対象にダイバシティ調査を実施した。注目すべきは、キャリアアップの意識をきいたところ、「現状維持でよい」と回答した30代〜40代の女性社員が6割をしめた点にある。(実務職:66%《630名中》、企画職:33%《170名》)。

実務職は、配属後の異動はないが職種転換制度で企画職になる道は開けているものの希望者はほとんどいないという状況であった。変化を望まない理由として「今以上に仕事が忙しくなるのは困る」「現状で満足している」などの回答がみられた。

この結果を重く見たトップは、「女性社員にもっと活躍してほしい」とのメッセージを発信。これを受けて、ダイバシティを推進するため、人事部門を中心にワーキングチームが結成され、調査チーム、制度・環境整備チーム、教育チームの3つが動きだすことになった。調査結果をイントラネットや社内報に公表するなど、組織活性化や社員のダイバシティ意識醸成への取り組み、女性社員のモチベーション向上のための教育プラン設計などが始まった。

事例2

マンネリ化の40代ベテラン社員(事務職)
業種:鉄鋼業

女性社員のほとんどは、入社以来異動がなく、20年近く同じ課でほぼ同じ業務を担当している。もちろん時代の流れとともにやり方の変化はあるものの、基本的には手続き業務に携わっており、課には事務職1名のみ、上司はベテランの同期男性か年下の後輩男性という状況が多くなっている。

15年ほど事務職の採用はしていなかったが、5年前より新卒採用を再開したこともあり、課によっては20代の事務職が配置されている。このような状況の中で、複数の管理職から、「ベテラン社員と若手社員の間に問題が生じてきている」という相談が人事に寄せられた。

詳細を聞いてみると、
ある20代の社員は、担当業務に前向きに取り組んでおり、現在やりにくい業務を改善したいと周囲のベテラン女性社員に相談をもちかけた。すると「私たちも改善しようと長年やってきたのだけど、何もかわらなかった。時間の無駄だからやめた方がいいわよ!」などの発言で中止になってしまうケースがいくつも発生した。

もちろん上司としては、直接注意して話し合うのが良いことはわかっているが、自分が若手のときから知っている同僚には言いにくいので何とかしてもらえないかとのことだった。人事としては、新入社員研修以降なにも研修を受けさせていないベテラン社員に対して、意識を変える教育ができないものかと思案していた。

では《事例1》《事例2》で挙げたような女性社員の意識やモチベーションをどのように向上させていくかを考えていきたい。

女性社員の意識・モチベーション向上の仕掛けづくり

2回目のコラム でも紹介したが、女性社員活躍推進をする上で、最も多い課題に女性社員の意識があがっていた。《事例1》《事例2》ともに女性社員の意識の問題である。現状の事実として以下の5つが挙げられる。

  1. 女性社員の事務職に対してジョブローテーションがない。
  2. 新社員研修以降、一度も研修を受けていない。
  3. 入社以来、ほぼ業務内容が変わっていない。(業務のマンネリ化)
  4. 現状の仕事への不満はない。
  5. 変化を好まない。

5つの事実から言えることは、《事例1》《事例2》の女性社員は、与えられた職場で与えられた業務遂行が当たり前として働いてきた。

つまり、変化のチャンスや学びの機会を与えられてこなかったという事実が浮かび上がる。したがって意識の低さを非難するのではなく、これからどんなことを彼女たちに与えることができるかが重要になってくる。

今まで仕事人生の場で機会を与えられてこなかった、過去・現在・将来にわたり、継続的な、より深い自分自身への気づきや自分らしさの発揮機会を、多様な局面で実践可能なプロセスを体験できる場を提供することである。

その中の試みとして、キャリア研修などの自身の仕事人生の振り返りから気づきを得ることや、上司から自分への期待を聞くことが重要なこととなる。

具体的なプログラム例を以下に紹介する。

仕事に主体的に取り組むためのワークマネジメントを実践する

組織は、自ら担当している職務に関して、主体的に取り組み、一連のまとまった業務を自律的にマネジメント(ワークマネジメント)ができる人材を求めている。

その“求められる人材”を自ら目指すキャリアに近づけ、そのキャリアに向かって積極的な能力開発に努めることは、自己の資産価値を高めていく活動として必要となってくる。

まずは、これまでの仕事人生を振り返るための仕事の棚卸しを行い、今まで仕事を続けてきた中で身につけた知識やスキルを確認し、自分自身が“やれること”を再確認することで自己理解を深める。

そして現状自分が置かれている立場から、周囲に求められている自分への期待を明確にする仕掛けとして、直属の上司から本人へ期待をしるした「上司からの手紙」を事前に書いてもらい研修の場で開封する。それを見て求められる役割を認識し、“やるべきこと”を明確にする。

また、これからの仕事への期待として“やりたいこと”を考え、更に自分自身の成長に向けて“とりくむこと”を計画化するという一連の流れで進めることが重要となる。

常に当事者意識をもって、主体的な仕事への取り組み方としてマネジメントする力を身につけることが特に求められる。

また、この実現のために自分を支援してくれる上司へは、「上司からの手紙」を受け、その返信(報告)として作成したアクションプランを見せながら面談を行うことが非常に有効になる。プランの実行に向けて、具体的に上司にどんなことを支援して欲しいかを伝える。この対面でのやりとりが双方向のコミュニケーションを深める機会となり、上司はその支援を約束することが求められる。

このように上司を巻き込んだ仕掛けを行うことは、女性社員のモチベーションが向上し、それと同時に上司の意識改革にも繋がる一例である。

以下は実際の研修カリキュラム

1日目 2日目
午前

Ⅰ オリエンテーション
  ねらいと進め方
Ⅱ “やれること”を振り返る
  〜自己理解を深める〜

  • これまでの仕事人生を振り返る
  • 仕事の棚卸し

【講義・個人トリオワーク】

Ⅴ “やるべきこと”を確認する

  • 周囲から期待される役割行動とは
  • 「上司からの手紙」より期待の確認をする
  • 求められる役割行動

【講義・個人・グループワーク】

午後

Ⅲ “やりたいことを”考える
  〜これからの仕事への期待を考える〜

  • 今の仕事と仕事の意味を結びつける

Ⅳ 影響力を効果的に発揮するためのコミュニケーション

  • 人に伝えるための事前準備

Ⅵ 更なる自己成長に向けて“とりくむこと”を認識する

  • 当事者意識を持った思考の手続き
  • 自己開示、自己表現のポイント

【個人・グループワーク】

Ⅶ まとめ

  • アクションプランをたてる。

【講義・グループワーク】

執筆者略歴

高田 靖子氏

1987年学校法人産業能率大学に入職。企業内研修、コンサルテーション等の企画コーディネートを担当。99年以降、男女雇用機会均等法改訂以来、企業内における女性社員活躍推進の案件に多く携わる。最近では、ダイバシティマネジメントおよびワークライフバランスをテーマとした快適職場づくりのための組織変革などに携わり、女性管理者育成のしくみづくりや女性社員の能力発揮、モチベーションアップ、支援型マネジメント等の能力開発の支援に従事している。

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