【第1回】女性活躍推進を組織に浸透させるための『粘土層オジサン』のマインドチェンジ 連載 公開日:2015年05月19日(火) 最終更新日:2024年12月10日(火) ご存知のように安倍政権になり始まった“アベノミクス”では、人財の活用ということが重視され、“全員参加の成長戦略、世界に勝てる若者、女性が輝く日本”の3つの政策が打ち出されています。そのなかでも、“女性が輝く日本”は、有名な『202030』という数値目標が挙げられています。これは、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という政策目標です。 このような政策背景に後押しされ、企業は、働く女性への働きかけとして、計画的な育成やローテーション、そして出産・育児などへの制度的な保護、さらに、上司である管理職への働きかけなどをおこなっています。つまり、企業も何かしらの手を打っているにも関わらず、現状、女性活躍は決して芳しい状況で進んでいるわけではありません。 しかし、最近の女性活躍推進の特徴は、以前にも増して就労人口の減少への対応ということが意識されていることです。これは、企業にとっても最も重要な資源である「人財」の確保という問題であることから、女性活躍を推進する強い原動力となりはじめています。そして、女性活躍推進が、今後の企業の人的競争力を左右するという意識が徐々に醸成されてきているようです。 そこでこのコラムでは、いよいよ本格化する女性活躍推進時代を迎えて、その成功のカギとなる3つの課題の克服方法について3回連載でご紹介していきます。 目次『粘土層オジサン』とは『粘土層オジサン』のマインドチェンジのポイントマインドチェンジの3つの方法 『粘土層オジサン』とは 『粘土層オジサン』という言葉を知っていますか? 誰が言い出した言葉なのかは分かりませんが、比較的意識の高い若手社員や女性社員の間で使われている言葉です。若手社員や女性社員の眼には、トップが旗を振り、新たな戦略や方針を浸透させようとしても、その中間に存在する粘土層が、あたかも水を通さない粘土のように、戦略や方針の組織浸透を拒んでいるように見えるのです。さらには、粘土なので、固まってしまうのです。つまり、古い価値観に固まってしまい、組織の挑戦的な取り組みを、邪魔する存在になっているというのです。 この粘土層となってしまっているのが、中間管理職、現場の管理監督者という主としてオジサン層なのです。 困ったことに、女性活躍推進を実現しようとすると、この「粘土層オジサンの常識のマインドチェンジ」が不可欠です。なぜならば、活躍する女性たちの上司であるからです。 『粘土層オジサン』のマインドチェンジのポイント では、この粘土層オジサンのマインドチェンジを促進するにはどうすればよいのでしょうか? 筆者の経験からすると、管理者も二極化しており「女性活用」についてのネガティブな役員や管理者は、相変わらず「女性社員は結婚や出産をするかもしれないから、大きな仕事は任せられない」というステレオタイプな見方をし、戦力としての期待を寄せない仕事のアサイン(割り振り)をしています。その一方、少数ではありますが、女性活用について、ポジティブな役員や管理者もいます。 最近は、女性活用という面では、その必要性を認めながらも「自分の職場では、まだ必要がない」という人が主流派になっているように思われます。つまり、オジサンも世の中の状況や自分の身近な体験(主に自分の子供や孫との関係)から、徐々にではあるのですが意識が変わってきているのです。 筆者が様々な企業の管理職研修の中で行った女性活躍推進についての話し合いの中でも、男女関係なく部下を扱おうとしている人が増えてきているように感じています。また、時短勤務者などの仕事の進め方を積極的に評価しようという管理者も増えてきています。 [参考] ある企業での管理者の発言 海外勤務希望の女性社員に対し、誰かがついていくわけにもいかないので一人で行かせてみたら、結果も出し、本人のモチベーションアップにもつながった。 短時間勤務の従業員は、見習うべき点がある。最終ゴールから前倒しして集中して業務に取り組んでおり、効率が非常に良い。 つまり、粘土層オジサン達も、実は変化を始めているのです。大切なことは、この変化を後押しすることです。 マインドチェンジの3つの方法 後押しの方法として大切なことは3つあります。 まず1つ目は、安全な場所で話し合う機会を設けることです。そして2つ目は、単に女性活躍ということではなく、多様な状況に置かれている部下・同僚と一緒になって成果をあげるにはどうすればよいのかという視点を大切にすることです。最後の3つ目は、企業として、リカレント教育を怠らないことです。 もう少し詳しく言うと、1つ目は、異業種交流や社外で行われている「働き方」のセミナーなどの活用を進めることです。これは、脅威のない場所での対話の機会の提供という意味なのです。つまり、本音での話し合いの中から“感ずる→気づく→考える→学ぶ”のサイクルが自然に起こり、深い理解に繋がって行くようです。もちろん、社内研修でざっくばらんに行えるならば良いのですが、やはり、自分の今までの意見が変わることに恥ずかしさを覚え、考えを改めることの抵抗が強くなってしまうようです。 2つ目は、良い経営者・管理者は、実に上手に人を使いますが、その本質に立ち返って考えるということです。つまり、女性活躍推進の本質課題は、上手に人を使うということなのです。これからは人口減、就労人口減という人口オーナス期に入り、子育てや介護で時間的な制約のある社員が増えていきます。そのような環境下では、人の活用の巧拙が企業の人的競争力を決定していくのです。 最後に3つ目です。女性活躍推進の最大の障壁は、『粘土層オジサン』の心の中にある仕事への古い考え方にあります。これは、新しい考え方を外部から入れないために発生します。つまり、教育的刺激の不足が起こしているのです。社員が職業上の新たな知識・技術を習得することや、日常生活において教養や人間性を高めるために必要とする専門的な教育(リカレント教育)を会社として取り込むことが大切なのです。 次回は、「『粘土層オジサン』から『イクボス』へ」をテーマに、女性部下を持つ管理者に必要なスキルに触れたいと思います。 執筆者略歴 高田 靖子氏 学校法人産業能率大学 総合研究所 経営管理研究所 研究員 男女雇用機会均等法改訂(1999年)以来、企業内における女性社員活躍推進の支援に多く携わる。最近では、ダイバーシティ&インクルージョンおよびワークライフバランスをテーマとした快適職場づくりや、管理型マネジメントから支援型マネジメントへの転換等の組織開発に携わる。能力開発の分野では、働き方に磨きをかけ、仕事の質を高めることを念頭に、ポジティブ心理学をベースとして女性社員の「強み」の発揮やモチベーションアップ等の領域での活動に従事している。また、現在、「制約のある働き方と幸福感」を研究テーマとしている。 ※このコラムの著作権は、学校法人産業能率大学に帰属します。 記事内容に関するお問い合わせにつきましては、お受けすることができませんのでご了承ください。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。