【2025年12月最新】通勤手当は非課税?2026年の制度変更についても解説 法制度情報 公開日:2025年11月26日(水) 2025年5月頃、通勤手当の課税が大きな話題になったことをご存知でしょうか。 2025年3月の衆議院予算委員会の質疑で通勤手当が社会保険料の報酬に含まれている点について議論されたことをきっかけに、SNSでは通勤手当の課税に関して様々な意見が飛び交いました。 実は、通勤手当に関しては過去にも注目を浴びたことがあります。政府税制調査会が2023年にまとめた中期答申で、所得税が非課税となっている通勤手当に関して「他の所得との公平性や中立性の観点から妥当であるかについて、政策的配慮 の必要性も踏まえつつ注意深く検討する必要があります。」[1]と提言したところ、こちらもSNS上で話題となりました。 繰り返し論じられる通勤手当について、現行の非課税限度額とこの先見込まれる制度変更の概要、そして今後対応すべきことの3つを解説いたします。 目次通勤手当に関する制度の概要2025・2026年の制度変更の概要直近の制度変更により考えられる影響今後対応すべき4つのポイントまとめ 通勤手当に関する制度の概要 通勤手当は、通勤に要する費用を会社が支払う目的で支給される手当です。通勤手当の支払いは義務付けられていませんが、社員の経済的負担の解消や福利厚生の一環として支給している会社が多くあります。この章では、現行の通勤手当非課税限度額に関してご説明いたします。 一定額以上が課税対象 通勤手当は一定の上限までは非課税です。非課税限度額を超えた場合は超過分が給与所得の扱いとなり、所得税の課税対象となります。限度額は通勤方法によって異なります。2025年12月時点の非課税限度額は以下の通りです。 (2025/11/26追記)令和7年11月20日に通勤手当の非課税限度額の引き上げが施行されました。赤く囲っている部分が変更点です。 公共交通機関(電車・バス)で通勤する場合 、1ヵ月あたり15万円まで非課税となります。 自転車・バイク・自家用自動車で通勤する場合、距離に応じて非課税限度額が異なります。 ※2km未満の場合は、自家用車を使用する必要性が乏しいため課税対象 基本給の中に通勤手当が含まれている場合は、給与として所得税の課税対象となります。 通勤手当は「報酬」扱いなのか? 通勤手当は所得税の課税対象ではありませんが、社会保険料の「報酬」として扱われます。 日本年金機構は、この「報酬」について以下のように定義しています。 「標準報酬月額の対象となる報酬とは、労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計に充てられるすべてのものを含みます。また、金銭(通貨)に限らず、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも報酬に含まれます。 ただし、臨時に受けるものや、年3回以下支給の賞与(標準賞与額の対象となります)などは、報酬に含みません。」[2] この「報酬」に通勤手当が含まれているため、通勤手当が高くなれば社会保険料も高くなります。この点において、2025年3月の衆議院予算委員会では「社会保険料が通勤手当をもらっている人ともらっていない人とで異なるのは不公平ではないか」との討論がありましたが、「通勤手当だけを除外することの正当性や公平性に課題がある」という理由で、通勤手当の除外は否定されました。 2025・2026年の制度変更の概要 これまで通勤手当に関する制度の概要をお伝えしましたが、今後通勤手当に関する制度変更が予定されていることをご存じでしょうか。 この章では、最近施行された通勤手当の非課税限度額の引き上げと、今後予想される制度変更に関して解説してまいります。 【2025年11月施行】通勤手当の非課税限度額の引上げについて 通勤時に自動車などの交通用具を使用している給与所得者に支給される通勤手当の非課税限度額が引き上げられました。 この改正は令和7年11月20日に施行され、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当に適用されます。 改正後の非課税限度を適用し、新たに非課税となる金額がある場合は、本年の年末調整での精算が必要となります。 年末調整での具体的な対応方法は、国税庁のサイトをご確認ください。 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025tsukin/index.htm 【2026年施行予定】国家公務員のみ非課税限度額の引き上げが勧告 2025年8月に、人事院は国家公務員の通勤手当非課税限度額の引き上げを勧告しました。内容は以下をご覧ください。 ・自動車等使用者について、65㎞以上から100㎞以上までの区分(5㎞刻み)を新設(上限66,400円) ・ 1か月当たり5,000円を上限とする駐車場等の利用に対する通勤手当を新設 [3] ※2026年4月に実施予定 上記2点の変更は民間企業においても見直される可能性があります。 なぜ非課税限度額が引き上げられる? 今回の制度変更の主な理由は、自動車等使用者の負担軽減によるものです。 具体的には、まず、物価高によるガソリン価格の高騰の影響が挙げられます。現行の自動車等使用者の通勤手当非課税限度額が制定された2014年10月の全国のレギュラーガソリン平均価格は164.3円だったのに対し、2025年10月22日時点では174.9円まで高騰しており、自家用車で通勤している者の負担が大きいことが指摘されていました。 このような状況を踏まえ、政府は物価高に対応できるよう公的制度の基準額の見直しに取り組み、速やかに対応すべき制度の一つに「マイカー通勤手当の所得税非課税限度額」を挙げていました。 また③に関しては、自動車で通勤している国家公務員が自らの負担で外部の駐車場を利用している状況を鑑みて、駐車場の利用に対する通勤手当の非課税枠を新設する流れとなったようです。 以上が今回の非課税限度額の引き上げの背景にあると考えられます。 直近の制度変更により考えられる影響 非課税限度額が引き上げられると、私たちにはどのような影響があるのでしょうか。この章では、従業員側と企業側の2つに分けて、制度変更がもたらす影響について説明いたします。 従業員側 今回の制度改正で自動車などの交通用具使用者の非課税となる範囲が増えるため、所得税の課税対象となる範囲が減少します。これに伴い、特に遠距離通勤の方は手取りが増加する可能性があります。 企業側 制度変更に伴い、企業側で検討すべき事項をまとめました。 給与計算や年末調整計算を見直し、制度変更に対応する 国税庁などからの情報と自社の影響範囲を照らし合わせて適切に対応しましょう。給与システムの変更も発生するため仕様を確認することも大切です。 就業規則を見直す 多くの企業では事務処理を円滑に遂行するため、通勤手当支給額を非課税限度額と同等の金額にしています。この場合、今回の制度変更で社内での通勤手当支給額が非課税限度額を大きく下回ることになります。そのため、就業規則に通勤手当として「非課税限度額を支給」し、「非課税限度額の金額そのものを定めている」場合は、就業規則の見直しが必要です。 今後対応すべき4つのポイント 以上の影響を踏まえ、今後次のような対応が求められます。 以下の国税庁のホームページなどで最新情報を定期的に確認し、必要な対応事項がないかチェックする https://www.nta.go.jp/ 年末調整の手順や昨年からの変更点について、以下の国税庁の資料を参考に確認する https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2025/01.htm 就業規則の内容を見直し、新しい非課税限度額に合わせて通勤手当の支給額を調整するかどうか検討する 制度変更の影響がある社員には、必要に応じて説明を行う 税務上のリスクを回避するためにも、通勤手当制度の整備は必要不可欠です。制度変更に向けて、早期に対応策を考えることが重要なのではないでしょうか。 まとめ さてここまで、現行の通勤手当非課税限度額とこの先見込まれる制度変更の概要、そして今後対応すべきことについて解説してまいりました。 現時点では国家公務員に対してのみ非課税限度額の引き上げが施行されていますが、今後の制度変更によって民間企業でも制度が変更になる可能性があります。その場合、給与計算や年末調整等影響範囲が多く、非常に対応が難しい内容だと思います。 広範な業務機能を網羅した弊社の全機能Web対応の統合HCMソリューション 「POSITIVE」は、このような制度変更にも柔軟に対応しております。今回の法改正のような制度変更への対応はもちろんのこと、パラメータや演算式を各会社様に合わせて組むことができるため、複雑な通勤費計算にも対応することが可能です。また、給与計算や年末調整などの定例計算業務を自動化できるため、人事部門の生産性向上にも貢献いたします。 電通総研統合HCMソリューション 「POSITIVE」を、この機会にご検討いただけますと幸いです。 参考文献 税経, “No2245 通勤手当の非課税限度額の見直し”, 2025年9月21日, 2025年10月20日参照 https://www.zeikei-news.co.jp/zeikei/no2245/ 国税庁, “No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当”, 2025年4月1日, 2025年10月20日参照 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm 新潟市人事委員会, “職員の給与等に関する報告及び勧告”, 2025年10月, 2025年10月20日参照 https://www.city.niigata.lg.jp/shisei/soshiki/saiyo/shokuin/kankoku/r07kankoku.files/R7_kankoku.pdf 神奈川県ホームページ, “令和7年 職員の給与等に関する報告及び給与改定に関する勧告 報告”, 2025年10月20日, 2025年10月20日参照 https://www.pref.kanagawa.jp/documents/124650/r7houkoku.pdf 三重総合社労士事務所, “【重要】通勤手当の非課税限度額、2025年4月から引き上げへ”, 2025年9月5日, 2025年10月20日参照 https://www.mh5.jp/announce_88001.html 朝日新聞, “「通勤手当に新たに課税」は本当? ネットの言説をファクトチェック”, 2025年6月14日, 2025年10月20日参照 https://www.asahi.com/articles/AST6F2R8QT6FULFA019M.html 国税庁, “通勤手当の非課税限度額の引き上げについて”, 2014年10月, 2025年10月22日参照 https://www.nta.go.jp/users/gensen/tsukin/index.htm 国税庁, “通勤手当の非課税限度額の改正について”, 2025年10月31日参照 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025tsukin/index.htm 経済産業省 資源エネルギー庁, “石油製品価格調査 調査の結果”, 2025年10月22日, 2025年10月22日参照 https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl007/results.html#headline1 引用文献 [1] 税制調査会, “第2部 個別税目の現状と課題”, 2023年6月30日, 2025年10月27日参照 https://www.cao.go.jp/zei-cho/shimon/5zen27kai2-1set.pdf [2] 日本年金機構, “標準報酬月額の対象となる報酬とは何ですか。”, 2023年1月18日, 2025年10月20日参照 https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/hyoujunhoushu/hyoujyunhousyuu01.html [3] 人事院, “令和7年 人事院勧告・報告の概要”, 2025年10月20日参照 https://www.jinji.go.jp/content/000011723.pdf 執筆者略歴 兼古 株式会社電通総研 HCM事業部製品企画開発室 新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の法制度改正対応や新機能開発に従事。「お客様にとって使いやすいシステムを追求し続け、自信をもって製品を提供したい」という思いで日々業務に取り組んでいる。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。 ※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。