【第3回】相互尊重が生み出す変化 ~現場で起こるポジティブな効果

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2025年6月6日に開催した「電通総研HR フォーラム2025」の内容をお届けしている本レポート。
第3回は、ニューロダイバーシティの推進に関するパネルディスカッションの2つ目のテーマ「推進した結果、何が起きる?」として、相互尊重がもたらすポジティブな効果についてお伝えします。

<その他の連載回はこちら>
第1回 ニューロダイバーシティとはーサマリと概要説明
第2回 組織でニューロダイバーシティを育てる第一歩は?
第3回 相互尊重が生み出す変化 ~現場で起こるポジティブな効果
第4回 ニューロダイバーシティの理念を組織文化へ

※HRフォーラム2025講演当時(2025年6月時点)の情報を掲載しています。

推進することで何が起きるのか 

組織内でのニューロダイバーシティの理解の促進と施策の推進をしていった結果、実際どのようなことが起こるのでしょうか。パネルディスカッションでは、ゲストが実際に体験したエピソードを踏まえ、3つの変化に言及しました。

1.IT領域に限らず、人材活躍の場は広いこと
2.自分には関係ないと思っていた人も、個人が受ける恩恵に気付くこと
3.組織や個人が画一的なコミュニケーションを取っていないかなどの自省が生まれること

清水氏:
発達特性(※1)、特に自閉スペクトラム症(ASD)の方は高い集中力や詳細への注意力を持つ傾向にあり、IT領域に向いていると言われることもあります。
そこから、「ニューロダイバーシティの推進」=「IT領域でのスペシャリスト、いわゆるギーク人材の活用」と捉えられてしまうことも少なくありません。IT業務が適するケースはたしかにあります。
ただ、私はこれまで取り組みを推進してきた中で、IT領域だけではない人材活躍の場があり、繋がりの輪が広がってきていることを実感しています。

※1 発達特性
発達特性とは、脳の認知や感覚などでの個人差を指すもので、多様な思考やスキルの一部を構成し、その特性の違いで、コミュニケーション、情報処理、学習に各人の特徴的なパターンが現れます。
私たちはこのパターンを個々人の特性と捉えることから、本コラムでも「発達障がい/神経発達症(または類する傾向)」とはせず、「発達特性」と表現しています。

私が特例子会社である電通そらりに在籍していたころ、発達特性のある方と農園の運営をしていました。作物のメカニズムを理解する必要がある農業は、“科学”です。そうした“科学”が得意な当時の社員たちは、年を経るごとに農業のスキルを上げていきました。そして作付け計画までもが可能なプロの農業家となり、農業検定にも合格しています。
そして、その農作業の様子を見ていた近隣の方々が声をかけて手伝ってくれるようになり、そこが地域のユニバーサル農園として発展していきました。

農業による収穫物、販売を行い、社会貢献をしながら広がっていく。
ニューロダイバーシティを尊重した取り組みを進めることで、IT領域に限らず活躍の場が増えて行き、人と人をつなぐ結節点となり、社会の変化につながるという現実を実感しました。

大野氏:
取り組みを推進していくことで、大きな2つの変化が起こると考えます。

第一の変化として、自分には関係ないと思っていた人も含めて、ニューロダイバーシティは何かしてあげるというパターナリズム的または一方的な支援ではなく、相互的に「私たちもその恩恵を預かるもの」であると気付き、自分事であると理解できるようになることです。第二の変化は、組織や個人が自身のあり方を再考する変化が生まれる、ということです。

まず、第一の変化、ニューロダイバーシティ尊重による、「皆が自己開示しやすくなり、その恩恵を受ける人が増える」ということについて、ご説明します。
職場において、マイノリティ性は実際に誰でも持っているにも関わらず、「今こういう状況にある。だからこういう配慮をしてほしい」ということを言いにくい人も多いと思います。生まれながらのマイノリティ性だけでなく、たとえば介護をしている、大病で体調を崩しているなどもマイノリティ性に含まれます。
見えない多様性をもとに合理的配慮を求めても差別されない。そんな組織になれば、自分の「大変さ」を誰もが気軽に言いやすくなり、働きやすさの恩恵を受けることにつながります。

次に、第二の変化、ニューロダイバーシティを意識し、発達特性のある人材と実際に関わることで、組織や自分自身のコミュニケーションのあり方について再考するきっかけとなります。
多くの人は言語でコミュニケーションを取っています。しかし、誠実さや伝え方を考えると、コミュニケーションというものは、もっと多様であるはずです。

支援していた企業でのあるエピソードをご紹介します。場面緘黙で、口頭でのコミュニケーションが苦手という方が働いています。その方が、電車の遅延による遅刻を上司に報告をするため、電話をしました。しかし、そこで言葉を発して伝えることが難しかったため、携帯のマイクをスピーカーの方向に向け、車内放送を聞かせようとしたそうです。他の同僚は一切連絡もして来なかったのに、その人は自分自身で伝えようとしており、さらに多くの人が使う電話というやり方を工夫して用いています。コミュニケーション能力が非常に高いですよね。
その体験で、連絡を受けた上司は、「自分たちに都合の良いコミュニケーションを多様な人たちに押し付けている」という構図に気付きました。そこから、その上司のマネジメントの仕方自体も全く変わったのだそうです。

新井:
コミュニケーションのインターフェースという点は重要ですよね。
ある論文があります。ASDの方同士のグループ、特性のない方同士のグループでそれぞれコミュニケーションを取ったときは上手くいく。しかし、メンバーをミックスしたときだけ、コミュニケーションに不和が起きたそうです。
「コミュニケーションの”障害”がある」と言われることは、単に人数が多い側のコミュニケーションルールやインターフェースへの適応を、少人数に一方的に求めているにすぎないのではないでしょうか。
「”普通”とは全て相対的なもの」という目線があると、相手に無理をさせていることに気付き、人との違いという相対性は実は全員のことであると気付き、そして自分のことでもあると気付く、というように理解がつながってくると思います。

 本テーマのまとめ 

パネルディスカッションの2つ目のテーマとして、「ニューロダイバーシティ推進で何が起きるのか」についてのリアルな体験談をうかがいました。

IT領域以外への広がり、個人がニューロダイバーシティ尊重の恩恵に気付くこと、組織や個人の自省が生まれること。ここで取り上げた変化は、実際に当事者や関係者に関わり、理解の促進・施策の推進をしていくことで起こるものです。これらの変化により、個人がさらに力量を発揮でき、イノベーションを生み出せる組織への進化も加速していきます。机上で方策を考え続けるだけでなく、“やってみる”ことで進んでいくはずです。

しかし、多くの企業では、どうやって進んでいったらよいのか、実現していく手段は何かに悩む現状もあります。次回は、「実現手段はあるのか、それはいったい何なのか」をテーマにしたディスカッションテーマについてレポートします。


執筆者

新井ゆかり
株式会社電通総研
コンサルティング本部

 

 

福田陽奈子
株式会社電通総研
コンサルティング本部

 

 

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このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。