給与収入と給与所得とは?違いや計算方法をわかりやすく解説

  • 公開日:

「給与収入」と「給与所得」、どちらも似たような言葉ですが、実は税金の計算においてまったく違う意味を持っています。普段の生活ではあまり意識することがないかもしれませんが、年末調整や確定申告の時期になると、この違いがとても重要になってきます。

本記事では、はじめに「給与収入と給与所得の違い」を解説いたします。続いて、給与収入と給与所得に関わる「給与所得控除」や「所得控除」といった控除制度の仕組みに触れ、最後に「所得税や手取り額の計算方法」を紹介いたします。

給与収入と給与所得の違い

「給与収入」は会社などから支払われる給与、賞与の合計金額であるのに対し、「給与所得」はその給与収入から必要経費(給与所得控除)を差し引いた後の金額で、課税対象となる金額です。

給与収入とは

給与収入(年収)とは、会社や団体などから支払われる給与・賞与・手当などの合計金額を指します。これは税金や社会保険料が引かれる前の「額面金額」であり、源泉徴収票の「支払金額」欄に記載されている金額です。

 例)  月給:30万円
      賞与:60万円
      ⇒年間給与収入(年収):30万円 × 12ヶ月 + 60万円 = 420万円

給与所得とは

給与所得とは、給与収入から給与所得控除という「必要経費に相当する金額」を差し引いた後の金額です。この給与所得から、各種所得控除が差し引かれた後の金額が課税所得であり、実際に所得税や住民税が課税される対象金額となります。

給与所得控除とは

給与所得控除とは、給与収入を得るために必要な経費とみなされる金額で、給与収入から自動的に差し引かれる控除です。会社員は実際に経費を申告しない代わりに、この控除が一律で適用されます。
一方、所得控除は個人の生活状況や支出に応じて適用される控除で、給与所得から差し引かれる控除です。例えば、扶養家族がいる、医療費が多くかかったなど、個人の事情に応じて課税所得を減らすための制度で、申告が必要な場合もあります。

給与所得の算出方法

給与所得は、給与収入から給与所得控除を差し引いて算出します。
給与所得控除は、給与収入に応じて国税庁が定めた金額が自動的に適用されます。以下は国税庁が公表している、令和7年分以降の給与所得控除です。

所得控除とは?全16種類を紹介

所得控除は給与所得から差し引かれる控除で、個人の生活状況や支出に応じて課税所得を減らすための制度です。以下に全16種類の所得控除を紹介いたします。

知っておきたい追加の控除制度

所得控除の他に、より細かい個人の事情や支出を反映して税負担を軽減する仕組みがあります。例えば、仕事にかかった実費を申告できる「特定支出控除」や、子育てや介護といった家庭の事情に配慮した「所得金額調整控除」などです。
これらの制度は申告が必要なものも多く、制度を知っているかどうかで納税額に差が出ることもあります。

特定支出控除とは 

特定支出控除は、会社員などが仕事をする上で実際にかかった費用のうち、一定の条件を満たすものについて、給与所得控除に上乗せして控除できる制度です。給与所得者が「特定支出」をした場合、その年中の特定支出の合計額が給与所得控除の2分の1相当額を超えるときには、超えた額(特定支出の合計額-給与所得控除の1/2)だけ給与所得からさらに控除することができます。

なお、全ての特定支出について要項や留意点が詳しく定められており、特定支出控除を受けるためには特定支出の事実および金額の証明と申告が必要になります。

所得金額調整控除とは

所得金額調整控除は、子供がいる方、本人や家族が特別障害者 である方を対象とする控除、給与所得と年金所得の双方を有する方を対象とする控除の2種類あり、給与所得から一定額を追加で控除できる制度です。それぞれの所得金額調整控除の適用対象者、控除額は以下の通りです。

所得税の計算方法

所得税とは1年間の所得に対してかかる税金のことです。所得税は、年収(給与収入)に対して一定の税率がかかるのではなく、給与所得から所得控除を差し引いた課税所得に対して、累進課税方式で税率が適用されます。以下は国税庁が公表している、所得税の速算表です。

所得税の計算方法と計算例

所得税は、「課税所得×税率-控除額」で計算されます。

また、所得税は上記の速算表を用いることで簡単に計算できますが、令和19年までは復興特別所得税が加算されます。そのため、復興特別所得税を計算し、所得税の金額に加算する必要があります。復興特別所得税は、「所得税の2.1%」で計算されます(1円未満の端数を切り捨て)。

それでは、実際に所得税と復興特別所得税を計算してみましょう。

 例)課税所得が7,000,000円の場合
   所得税:7,000,000円 × 0.23 - 636,000円 = 974,000円
   復興特別所得税:974,000円 × 0.021 = 20,454円

したがって、 課税所得が7,000,000円の場合、所得税および復興特別所得税の合計金額は、994,454円となります。

手取り額の計算方法

手取り額とは、給与収入(総支給額、つまり額面)から、所得税や住民税などの税金と、健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料を差し引いた後の、実際に手元に残る金額です。手取り額は収入の金額や扶養人数などにより差があり、正確な手取り額を簡単に計算することは難しいですが、一般に収入のおよそ75~85%といわれています。

手取り額の計算方法と計算例

手取り額は、以下の流れで計算されます。

1. 給与収入から給与所得控除を差し引いて給与所得を求める
2. 給与所得から所得控除を差し引いて課税所得を求める
3. 課税所得に対する所得税、住民税と、社会保険料の金額を求める
4. 給与収入から所得税、住民税、社会保険料を差し引いて手取り額を求める

それでは、実際に手取り額の計算例 を見てみましょう。

  例)配偶者なし、扶養親族なしで年収500万円の方の手取り額の概算
  1. 給与収入から給与所得控除を差し引いて給与所得を求める
    ●給与収入 = 5,000,000円
    ●給与所得控除 = 5,000,000円 × 0.20 + 440,000円 = 1,440,000円
     ※給与所得控除は、給与収入が3,600,001円から6,600,000円の場合、
      「給与収入 × 20% + 440,000円」
    ●給与所得 = 5,000,000円 - 1,440,000円 = 3,560,000円

  2. 給与所得から所得控除を差し引いて課税所得を求める
    ●所得控除(基礎控除と社会保険料控除のみ適用で概算)
      = 680,000円 + 5,000,000円 × 0.15 = 1,430,000円
     ※基礎控除は、給与所得が3,360,001円から4,890,000円の場合、680,000円
     ※社会保険料控除は、その年に払った社会保険料であり、給与収入の15%で概算
    ●課税所得 = 3,560,000円 - 1,430,000円 = 2,130,000円

  3. 課税所得に対する所得税、住民税と、社会保険料の金額を求める
    ● 所得税 = 2,130,000円 × 0.10 - 97,500円 = 115,500円
     ※所得税は、課税所得が1,950,000円から3,290,000円の場合、
      「課税所得 × 10% - 97,500円」
    ●復興特別所得税 = 115,500円 × 0.021 = 2,425円
     ※復興特別所得税は、「所得税 × 2.1%」
    ●住民税 = 2,130,000円 × 0.10 = 213,000円
     ※住民税は、課税所得の10%で概算
    ●社会保険料 = 5,000,000円 × 0.15 = 750,000円
     ※社会保険料は、給与収入の15%で概算

  4. 給与収入から所得税、住民税、社会保険料を差し引くことで手取り額を求める
    ●税金と社会保険料の合計額
      = 115,500円 + 2,425円 + 213,000円 + 750,000円 = 1,080,925円
    ●手取り額 = 5,000,000円 - 1,080,925円 = 3,919,075円

したがって、配偶者なし、扶養親族なしで年収500万円の方の概算では、約108万円が税金・保険料として差し引かれ、実際の手取り額は年収の約78%である約392万円となりました。

まとめ

さてここまで、給与収入と給与所得の違いや控除制度、また所得税と手取り額の計算方法について解説して参りました。給与明細や年収の数字を正しく理解するためには、給与収入と給与所得の違いを知ることがその第一歩となります。さらに控除制度の種類や所得税の計算方法など、税金の仕組みを理解し、将来の資金計画や節税対策に役立てていきましょう。
また、企業が従業員の給与計算・税務処理を効率化し、ミスなく運用するためには、信頼できる人事・給与管理システムの導入が重要です。広範な業務機能を網羅した電通総研の全機能Web対応の統合HCMソリューション「POSITIVE」は、給与収入や給与所得の計算はもちろん、控除制度や所得税の計算も自動化されており、最新の法令改正にも迅速に対応いたします。 年末調整や源泉徴収票の発行、住民税管理、退職金計算など煩雑な業務も一元管理できるため、担当者の負担を大幅に軽減します。
電通総研の統合HCMソリューション「POSITIVE」を、この機会にご検討いただけますと幸いです。

執筆者略歴

伊藤 真幸

株式会社電通総研
HCM事業部製品企画開発部

新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の法制度改正対応や新機能開発に従事。「お客様にとっての安心と使いやすさを追求し続け、より良い製品を提供したい」という思いで日々業務に取り組んでいる。

 

このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。
このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。