【第3回】問題は定年退職後継続雇用されている60歳以上の社員

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有期契約社員と正社員の労働条件が相違する場合、その相違は、職務の内容(労働者の業務の内容及び業務に伴う責任の程度をいう)及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、有期契約社員にとって不合理と認められるものであってはならないことになりました。

ここでいう「労働条件」には、賃金や労働時間等の労働条件のみならず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等労働者に対する一切の待遇が含まれます。気になるところでは、賞与や退職金も含まれます。

労働契約法

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

第20条
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

この改正条文は、民事的効力のある規定であるため、行政指導も是正指導もなく、違反企業に対する罰則や公表もありません。民事訴訟を提起されたときのみ問題となります。但し、民事訴訟により無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されます。つまり、賃金はもちろん、賞与や退職金もということです。

この条文の対応としては、「配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」とありますので、地域限定とか、配置転換なしとあらためて明示し、そのような対応を取れば抗弁できるものと考えられます。しかし、出来れば『時間外労働や休日労働をさせるといった責任等を負わせず、時間になったら帰れるようにする』とか、『朝礼や会議等にも出席させず、あくまでも有期契約社員は、正社員からの指示により業務を行う』という立場も明確にしておきたいものです。そしてなによりも、正社員には『非正規社員と同じことをするな!』と、立場を常に考えさせることが必要でしょう。

しかしながら、次のような場合は、今後どうするのか検討が必要です。

(1)工場や現場等の仕事で、ほとんど配置転換がなく、非正規社員と同じことをしているにもかかわらず、非正規社員の賃金が低い。
(2)定年退職後、再雇用し賃金を下げたが、業務や権限がほとんど変わらない。
このようなケースでは、民事訴訟を提起されれば、負ける可能性が大きいのではないかと考えます。業務内容、責任と権限、役職等についてあらためて吟味して下さい。吟味してもほとんど変わらないようであれば、方法論としては次の通りです。

(1)に対しては、賃金を8割以上に引上げる。もししくは、賃金制度を見直しし、8割以下になるような格差を是正する(8割の根拠は、下記裁判例を参照して下さい)。同一労働同一賃金に近づける。

同一労働同一賃金は、法律で規定されているわけではありません。しかしながら、欧米では、同一労働同一賃金となっています。大げさにいえば、日本が異質なのです。EU諸国でも「有期契約労働者であることを理由とした合理的理由のない不利益取扱いを禁止」しています。グローバル企業を自負している会社は、またグローバル企業を目指す会社であれば、同一労働同一賃金に近づくよう努力すべきでしょう。

<女子臨時社員と女子正社員との賃金格差につき、両者の労働時間や仕事の内容が同一であることに着目し、女子正社員の賃金の8割相当額までの差額につき、損害賠償請求を認容した事例>

もっとも、均等待遇の理念も抽象的なものであって、均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上は、その幅の範囲内における待遇の差に使用者側の裁量も認めざるを得ないところである。したがって、本件においても、原告ら臨時社員と女性正社員の賃金格差がすべて違法となるというものではない。前提要素として最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員については年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他本件に現れた一切の事情に加え、被告において同一(価値)労働同一賃金の原則が公序ではないということのほか賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないことも考慮すれば、原告らの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を明らかに越え、その限度において被告の裁量が公序良俗違反として違法となると判断すべきである。

(丸子警報器事件 平成8年3月15日 長野地裁上田支部)

(2)に対しては、定年を65歳まで延長する。

今度の法改正は、有期契約社員に対するものであり、正社員に対する法改正ではありません。正社員として『賃金カーブとして60歳以降引き下げている』とすれば、違法とされることはないでしょう(こんなことを社会保険労務士として書いていいのか疑問ですが・・・)。
「人件費がアップするのでは?」と考えがちですが、定年を65歳まで延長する場合でも『退職金算定は60歳までとする』とか『賞与は支給しない』というのは構いません。退職金規程や賃金規程規等で明確にしておけば問題ないでしょう。但し、65歳前に退職を希望する社員もいるでしょうから、『60歳から65 歳の間で退職する場合は、定年退職として扱う』とはして頂きたいものです。

執筆者略歴

奥村 禮司氏

新事業創造育成実務集団代表、社会保険労務士、CSR労務管理コンサルタント、労働法コンプライアンスコンサルタント。上場企業や外資系企業など多数の企業の顧問として、雇用管理・労務管理などの指導、相談に携わる。また、労働法の講演会や執筆などのほか、産業能率大学総合研究所兼任講師、株式会社きんざいの講師としても活躍中。

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