【第1回】経営・組織・人材戦略の基本フローとストーリー(筋書き)化

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世界に目を転じると地球サイズでの変化〜レアメタルに代表される地球資源の枯渇や、世界レベルでの高齢化〜等様々なことが地球規模で起こっていますが、企業や組織が生き残っていくために、それに即応、先んじて対応することが喫緊の課題と言えます。

2009年8月4日の日本経済新聞朝刊の一面トップの見出しは、“「クラウド」普及へ投資”でした。クラウドは「雲」であり、ネットワークを指しますが、主な概念はコンピュータをインターネット利用することに他なりません。そして、私たちは、インターネットを通して、諸々の資源を統合し、これらを所有から利用へ、そして、専有から共有させていく中で、企業や組織、人材が群集の知恵で繋がり、共働して顧客創造に邁進して事業成長の基盤と仕組をつくり、新しいビジネスを展開していくべき時機、すなわちクラウド経営の時代に遭遇しています。

クラウド経営の時代では、企業や組織においては適時、適品、適量で経営資源を調達する柔軟さと効率化が求められ、諸々の仕組みや体制も世界標準として規格化される方向にありますが、その一方で、人材が持つ多様で流動的な価値観への柔軟な対応も必要不可欠であり、今、まさに戦略のストーリー化が問われています。さらに、企業や組織が10年後も存続し続けるために、経営者は経営理念、哲学を社員全員と共有し、社員は自身の“強み”を動力エンジンとして、多層的にリーダーシップを発揮することが欠かせません。そして、協働して経営・組織・人材各々の戦略を明確に打ち立て、戦略にストーリー性を持たせ、戦略を構成するサブシステムを繋いで動態的に機能し合うダイナミックな成長軌道を造っていかなければなりません。

本コラムでは、クラウド経営時代の企業や組織の変革、成長に有効な動態的なシステム、ツールであるストーリーラインとしての経営・組織・人材戦略を3回に分けて、紹介させていただきます。

クラウド経営の意味づけと時代背景、要請

日本でインターネットが普及し始めたのは、家電量販店の店頭に国内外のメーカーのWindows95のOSを搭載したパソコンが並んだ1995年頃です。これらパソコンの主たる機能であるインターネットは、当時革命的で画期的な技術でしたが、その後多くの企業がインターネットの躍進をチャンスと捉え、さまざまなビジネスモデルやサービス化を提案し、新しい事業に参入して、事業収入の拡大を遂げてきました。近年では、インターネットは自らの機能がもたらす情報自体を“Free(無料)化”し、その無料化がもたらす新たな課金システムをも創造しています。

そんな中、昨年2009年8月4日の日本経済新聞朝刊一面トップに“「クラウド」普及へ投資”の見出しが掲載されましたが、この記事こそが、『クラウドコンピューティング』という潮流の起こりでした。つまり、コンピュータがインターネットを媒介にしてネットワークで繋がるということですが、潮の目の交流域として、ネットワークこそがコンピュータと捉える『ネットワークコンピューティング』の概念に勢いづいたと捉えた方が的確かもしれません。

今回のコラムのタイトルにある『クラウド経営時代』は、私たちビジネスパーソンが、インターネットを媒介にしてネットワークで繋がることによって、諸々の経営資源(人・モノ・金・情報・時間)を統合し、これらの活用方法を「所有から利用」へ、「専有から共有」へと変化させていく中で、企業や組織、人材のそれぞれが群集の知恵で繋がり、共働して顧客創造に邁進して、事業成長・発展の基盤と仕組をつくり、新しいビジネスを展開していく格好の時機と言えます。さらに、この時代は、企業や組織が経営資源を適時、適品、適量で調達する柔軟性や効率性が求められ、諸々の仕組みや体制も世界標準として規格化される方向にはありますが、その一方で、組織や人材が持つ多種多様な価値観への個々別々の対応が必要不可欠です。現下の『クラウド経営時代』にこそ、企業や事業体は、自らが持続して成長、発展し、生存可能性を将来に確実に担保していくために、経営層は企業理念・経営理念を社員と共に共有し、社員は管理層・一般層を問わず多層的に自律的なリーダーシップを発揮する必要があります。その中で経営企画・人事部門は、それぞれと協働して経営、組織、人材の領域における戦略を明確に打ちたて、それぞれを構成する要素を繋ぎ、動きのあるストーリーラインに仕上げて、ダイナミックな成長軌道を造っていかなければなりません。

ストーリーラインとしての経営・組織・人材戦略の全体図と概要
〜縦軸のフローと横軸のムーブメント〜

日本の外、世界に目を転じると地球サイズでの変化が、同時多発的にワンワールドなレベルで起こってきていますが、私が尊敬するP.F.ドラッカー博士は、「変化」に関して次のように著書で論述しています。「・・・変化はコントロールできない。できるのは、変化の先頭に立つことである。今日のような乱気流の時代にあっては、変化が常態である・・」(「ネクストソサエティ」 ドラッカー,P.F.著、上田惇生訳、ダイヤモンド社、2002より引用)と。

私の意味づけでは、企業や組織が持続的に成長し、発展を遂げるためには、市場や組織のフロンティア(最前線)に立ち、外部環境におけるさまざまな変化を発見、発掘して、変化に先駆けた行動をとっていくことが必須であるということです。

これらのことに真摯に取り組むために、経営・組織・人材の多面的な領域の戦略を縦軸のフロー(繋ぎ:連関)と横軸のムーブメント(動き:動態)でストーリー化したものが、下図の「ダイナミックなストーリーラインとしての経営・組織・人材戦略」全体図です。この戦略の流れには普遍性があり、企業や事業体で大きく異なるものではないと思量しますが、戦略は9つの構成要素で成り立っています。

「経営・組織・人材戦略」の起点は、企業に所属する社員全員の経営価値概念としての企業理念・経営理念です。企業や事業体は自らの経営活動上の最高の指標たるこれらの理念に基づいて事業活動を駆動していくことが大前提です。床の間の掛け軸にある「動かぬ虎」ではなく、そこから抜け出て「動き回る虎」としての企業理念、経営理念であってほしいものです。

中期ビジョンは、企業理念・経営理念に基づく全社ベースの中期事業計画、年度計画を策定するための経営層の意思決定プロセスに他なりません。企業理念・経営理念を実現するために、経営層が中長期的に実現したい、こうありたいと想うことが中期ビジョンですが、具体的に想いを確信的なものとして時間軸で中期事業計画、年度計画へと展開し、企業理念・経営理念と中期事業計画・年度計画を繋ぎ、連関させるための重要な要素なのです。
これらの企業理念・経営理念、中期ビジョン、中期事業計画は、経営層、管理層、一般層の多層において「どうあるべきか」を共有する価値観の集合体と定義できるでしょう。
一方、組織編制は、年度計画を設定し、それを完遂するために、経営層と管理層が合意を形成する動きとしての『経営体制の運用』を循環、動態させる要素です。即ち、経営層が考えている、組織や管理層に期待することと、管理層が実際に行動しようとしていることや、できることを適合、統合させていく必要があるのです。

目標マネジメントは、『経営体制の運用』での経営体制づくり、人材処遇、配置を受けて、管理層が合意した内容に基づいた組織目標や個人目標を決定し、実行、達成、評価、検証するPDCAサイクルの各プロセスを管理層と一般層が合意形成し『目標運用』を周回、動態させる要素です。
この一連の目標マネジメント運用のPDCAサイクルは、経営、組織、人材領域の重要な職務の流れと動きをつかさどるプロセスであり、これらの要素の運用を通じて明確化した組織貢献の事実が成果検証、評価の要素へとつながっていくのです。
そして、ウェイトの大小はあれ、経営層であれば全社ベースの年度計画が展開されて、管理層は組織目標、一般層は個人目標が成果検証、評価の対象となる項目になります。そして、成果評価の結果をもとに成果配分をして、貢献度合いに応じた処遇に連環させていくことになります。

ストーリーラインとしての経営・組織・人材戦略の「繋ぎ」と「動き」を実態検証する方法

「経営・組織・人材戦略」を構築するための事前の調査体系は、「経営・組織・人材戦略」を構成する要素を、ハード面の導入(植え付け)検証と諸要素間の連関(繋ぎ)検証、諸要素の運用動態(動き)の検証をするための情報収集、調査・診断・分析で構成されています。下図は、診断分析としての要素の動態的な結果を表す画面ですが、経営・組織・人材戦略フローにおける諸要素間の連関は右側のフローチャート、諸要素毎の制度導入実態、運用動態は左側のレーダーチャートに表示されます。

下表にある『運用動態調査』は、あるクライアントの実例ですが、この実例では、経営・組織・人材戦略の要素の大半は、あまり機能していない状態が表されています。

「経営・組織・人材戦略」の意味づけとそのための思考様式とコンピテンシーの必要性

戦略はストーリーライン(筋書きと線引き)を白い地図に描くようなものです。「我社、我々の居場所が白地図のどこにあるのか、どの世界にいたいのか、また業界のどこに位置づけたいのか」というように、現在地(居場所)と目的地(ありたい姿としての中期ビジョン、中期事業計画・年度計画としての課題、目標としてのゴールとプロセス)を描くことに他なりません。そして、課題と目標の軸で動態運用していく一連の戦略策定で大事なことは、社員に「夢」と「希望」と「方向性」を示す中期ビジョンの構想をする場面において、過去の問題点を“数値”至上主義で分析する「左脳思考」ではなく、答えのない未来に向けて、答えそのものを考察する“筋書き”や閃きで想いを“線引き”する「右脳思考」をフルに活用することです。そして、中期事業計画においては、筋書きと線引きのある事業分野・顧客・商品・技術・人材領域のビジネスドメイン毎でのストーリー性のある重要課題を形成していくことが大切です。さらに、この重要課題を組織、人材としての個人にアサインして、浸透させていくためには、とりわけ経営層、管理層が中期ビジョン、課題、目標に展開される「経営・組織・人材戦略」の実行に関わる人々を鼓舞させるパラクライン(傍分泌として他者の脳への作用)を強化するために、業績直結能力であるコンピテンシーとしてのリーダーシップ、コミュニケーション、ルーティン(基礎)それぞれの「力量」を備蓄していくことが自己成長・発展の人材育成課題と言えます。

執筆者略歴

柳原 愛史氏

立命館大学法学部卒、イオン株式会社およびイオングループミニストップ株式会社を経て、学校法人産業能率大学入職。
現在は、成果開発・成長創発型人事システムの構築導入・運用定着・運用改善に関するコンサルテーションや、幹部選抜・育成のためのアセスメント、マネージャー育成のための教育研修等に携わる。

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