【第3回】グローバル・リーダーシップと組織・人材開発の体系づくり

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奇跡を起こすためのグローバル化とそのリーダーシップ

新年元旦の私の楽しみは、元旦に配達される新聞と年賀状です。
元旦の新聞は、どれも分厚く分冊があり、色々な特集を組んでいますが、今年の日本経済新聞の一面トップの特集は、『三度目の奇跡〜先例なき時代に立つ、外で作り、内で創る〜』でした。かつての日本は、歴史の中で、危機的な状況に追いこまれながらも、明治維新、敗戦後の高度経済成長という二度の奇跡を経験してきましたが、バブル崩壊後の「失われた20年」を経たいま、衰退の先頭を走る日本は、過去の好事例やモデルもなく、国内外を連結する人材の育成が喫緊の課題である。そして、これからは彼らのリーダーシップによる三度目の奇跡を起こす挑戦を期待するという論説のように解釈できました。

さらに、「IT・デジタル」特集の記事からは、とりわけ、ネットワーク経由でソフトウェアや情報システムを利用する「クラウドコンピューティング」が一気にグローバルレベルで広がり、一般の企業に留まらず、医療、教育、行政など幅広い分野で、クラウド自体の持つ価値としての効率化や業際化を次々に実現し始めていることが見受けられます。

さて、もう一方の楽しみである年賀状はと言いますと、色々な記述様式が見えて、送っていただきました方々の人柄にも触れることが出来ますが、最近は、仕事の関係で海外に赴任、海外で定年を迎え、そのまま永住を決めた先輩諸氏や同僚からの各国の風景写真やイラスト入りの賀状が増えています。まさに、企業の挑むマーケットのみならず、人が生きる空間や場所も、狭い日本だけに留まらず、アジア、欧米へと確実に「グローバル化」が進展しているようです。

マネジメントとリーダーシップのポジショニング(位置づけ)

これまで本コラムで登場してきました現代マネジメントの父であるP.F.ドラッカー博士の書物は自宅の書棚にあるものを数えると、有に50冊を越えています。しかし、どの書籍を精読しても、「リーダーシップ」を単独のテーマとして、或いは集中的に取り上げたものはなく、大半が「マネジメント」というテーマに終始しています。ただ一方で、博士が「マネジメント」を論じるときには、常に傍らにリーダーシップという語彙が添えられるケースがしばしば見受けられます。数少ない博士のマネジメントとリーダーシップを比較する定義では、「マネジメントは事を正しく行うことであり、リーダーシップは、正しいことをする」と述べています。私見ですが、博士はこの定義で、何が正しいことなのか、とるべきリスクは何かを決定できるのはリーダーであると言いたかったのでしょう。彼の代表的な自問である「だれが顧客なのか」「企業の目的は何か」「事業とは何か」の問いはこのことを如実に示しているように思えてなりません。つまり、「何が大切か」、「何が正しいのか」といった「What」の追究や探索の道筋をつくることにこそ、リーダーシップ発揮の場があり、それゆえに、リーダーシップはマネジメント同様に大切であると語りたかったのではないでしょうか。

そういう意味では、「マネジメントはリーダーシップそのものでもある」とも言及できます。我が国は、人口減少と少子超高齢化(ちなみに日本人口の平均年齢は45歳)を迎え、年金・社会保障制度破綻の現実味を帯び、10年超えの長期デフレなど未曾有の大きな課題を抱え、危機に瀕しています。このような危機を乗り越え、三度目の奇跡に挑戦するためにも、現実を直視し、未来に向けた処方箋を考え、国内、国外を連結(コネクト)できるリーダーの育成が求められています。

海外市場における活動全体像(例)

グローバル仕様で経営・組織・人材の戦略プランニングを完遂するリーダーに必要なコンピテンシーとしてのリーダーシップ、コミュ二ケーション、ルーティン(基礎)

制度構築の支援をさせていただいいたクライアント(製造業)の要請により、一昨年あたりから、その海外拠点である東アジア、インドネシア、ベトナム、タイ、中国を定例的に訪問して、現地に出向している経営者、管理者、そして現地管理者のマネジメント研修を実施していますが、とりわけ初めて訪問したベトナム、ハノイの躍進振りを目の当たりにして、大変驚かされました。ドイモイ政策で先進国に見習う国家の志向性、国民の勤勉姿勢からしますと、この成長の実態も理解できますが、とくかくそのスピードについては、日本が歩んできた時間軸とは格段に違うことを感じました。

また、「秒進分歩」の観すらある韓国では、日本に先んじて、大統領李明博氏の「グローバルリーダー10万人計画」を打ち出しています。サムスン電子のような大手に就職できる若者は僅かであり、それゆえに国をあげて、韓国産業人力公団が職業訓練校を助成して、一人でも多くの若者をグローバルな人材に磨き直し、研ぎ澄ませようと目論んでいるのです。

われわれが三度目の奇跡を起こすためには、韓国と同様に、経営トップから現場第一線の人材までもグローバル仕様に仕立てることが不可欠です。そのためには、トップや管理者層が国内や、企業内部にとどまることなく、「百聞は一見に如かず」のとおり、国外に足を運び、日本という国や企業が抱える難題の解決糸口を見つけていかなければなりません。そして、難題の解決のために諸々のプランニングをし、ビジョン構想、課題形成、目標設定に展開するリーダーが、戦略の実行に関わる多国籍の人々を鼓舞させるパラクライン(作用)力として、グローバル仕様のリーダーシップ、コミュニケーション、ルーティンそれぞれの「力量」を獲得し、先例なき未踏の領域へも積極果敢に挑んでいくことが期待されているのです。

グローバルリーダーシップ開発のデザイン
〜リーダー開発「リーダーシップ2.0」の基本スキームと開発のレバー(操作要素)〜

今、色々な情報媒体、書籍をみますと、様々なグローバル化や情報化が進む中で、世界同時多発というワンワールドの環境下に求められるリーダー像も刻々と変化をしてきています。まさに、リーダーの開発、グローバルリーダーシップのあり方が旬なるテーマとして注目を浴びています。

Web2.0、クラウドの新しい社会構造がもたらすマネジメント、リーダーシップの未来

Web1.0は静止したウェブページの集合体にすぎませんでした。21世紀に入り、ソーシャルネットワーキングサービスやフォークソノミー(※1)など新しい参加型のアーキテクチャーを軸としたWeb2.0が構造化されつつあります。

※1インターネットのウェブサイト上の情報に、利用者自らが複数の「タグ」(名札)を自由に付け加え、検索できるようにしていく分類の方法をいう。folks(民衆)とtaxonomy(分類法)を合わせた造語。

この新しいネットの社会構造は、「エンド To エンド」のネットワークであり、従前の車輪のごとき縦の繋がりが、横型の調整プロセスに変わっていきます。そして、インターネットは広汎なリアルタイムを持続できることによって、それぞれの創造力を拡大させ、すべての人が発言でき、実験実証が容易に行なえるため、資格・肩書きよりも能力がものを言うことになります。これらに参加することは自主性に委ねられ自由です。そこにおける権威は流動的で、自然なヒエラルキー状態となります。また、全てが分散的で、ネット上では個々人のアイデアがフェアな環境下で競われます。

1980年代以前の経営管理職は「ポスト工業社会」で育ってきましたが、P.F.ドラッカー博士の論じているように、現在の社会構造は、まさに市場との周縁を持った「ネクスト・ソサエティー」という「ポストマネジメント」、「ポスト組織社会」にさしかかっていると言えます。そのように考えると、以前、IBM社のCEOパルサミーノ氏が「ヒエラルキー的で、指揮統制型のアプローチは全く役に立たない。それでは、会社内部での情報の流れを妨げ、今日の仕事の持つ流動的で協力的な性質を邪魔してしまう」と言った言葉が鮮やかに蘇ってきます。

つまり、既存の組織や運営システムの管理という仕事が経営層や管理職によって遂行されるということは次第に減り、より少ない「管理」で「チーム」を構築し、新しい『働き方』を試行錯誤するようなネットワーカーとしてのリーダー、ハイブリッド型リーダーとも言えるような人材の育成が喫緊の課題となってきているのです。

新しいリーダー像としての「リーダーシップ2.0」の基本スキーム
〜基軸・行動様式・志向性〜

リーダーシップ論については、P.F.ドラッカー博士のみならず、最近では、ジョン.P.コッター、ジョセフ.F.ナイ、ロバート.K.グリーンリーフなど著名な学者による定義、方向づけが頻繁に更新されていますが、ここでは、私自身の研究・開発途上段階で形成してきた基本スキームを「リーダーシップ2.0」として述べていきます。

(1)創造と変革の大きなビジョンでリードし人材・組織・仕組みをイノベーションする基軸

仕組みで人を動かすマネジメントに加えて、創造と変革の大きな構想を掲げて組織や個人に成果をもたらすリーダーが期待されていますが、その前提として、強く、清きリーダーシップのもと、自らの基軸を確立し、市場社会に向けて高潔で高次元な目的を示し、それを実現することが必要です。そのためには、下記の3つの基本的な要素があります。

  1. リーダーの第一の仕事は次世代の自律したリーダーを育むことである
  2. 信頼感に満ちたそれぞれの『間』を作り、企業文化や風土を創造する
  3. 多様性、即ち多様な尺度、意見の対立、少数派の意見を肯定し、奨励・支援する

(2)プロフェッショナル・リーダー、リフレクティブリーダーとして期待される行動様式

リーダーは、自問自答し、内省して考え抜いた自分解を出す思考力、主体性や独創性を持ち果敢に踏み出す行動力、利他の精神で異質なものと協働する関係力が求められます。まさに、「創造と革新をチームと個人にもたらす変革のグローバルリーダーたれ」と言いたいところです。この創造と革新もたらす行動様式には3つの基本的要素が必要と考えます。

  1. 自問自答、内省をし、考え抜いて、自分「解」を導きだす思考力
  2. 主体性や独創性を持って、果敢に一歩前に踏み出す行動力
  3. 利他の精神で異質なチームや人とも協働できる関係力

(3)フォロワーの存在が光る、自然発生的に輩出されるリーダーの動機づけ力・高い志向性

P.F.ドラッカー博士は、「成果を上げるリーダーは、リーダーシップについて4つの簡単なことを知っている。第一にリーダーには従う者がいる・・・」(「プロフェッショナルの条件」P.F.ドラッカー著 2000年 ダイヤモンド社より引用)と定義していますが、その従う者、フォロワーを実在ならしめるためにも、リーダーはキャリアを磨き、思いやりと誠実さをもってネットワーク構築のエンジンとなるべきです。リーダーとしての動機づけ力、高い志向性を獲得するためには、下記の3つの基本的な要素が必要と考えます。

  1. 自分なりに働く意味を『腑に落とせる』〜フロー(無我夢中)状態に昇華させる
  2. 情報をガラス張りにして、全員でシェアードできるフェアプロセスの状況を作る
  3. 心揺さぶるビジョンを示し、課題を日常の業務に注入させて心に刻むために惜しみない支援をする

グローバライズする競争に打ち勝つ、リーダー人材開発のレバー
〜場面と体験の課題を解決する操作要素〜

(1)多国籍企業としての人材開発の方向性を示す人材育成ビジョンの策定

国内外、さらに世界をまたに駆けて、活躍するリーダーを開発、育成、動機づけるためにも、「人材育成ビジョン」は、「人材育成に本気である事を示すコミュニケーションの台座」として大切なエレメント(要素)と言えます。従業員一人ひとりが夢や希望を抱き、方向性を確実に認識できるコンテンツとしての人材育成ビジョンの浸透により、企業の成長に向けて、組織と個人のやる気の軸を合わせ、トップから現場第一線のメンバーの一人ひとりが、諸事を我が事として受け止められるよう基本的な方向づけを可能にしていきます。そして、経営・人材・組織のあらゆる面での士気の上げ潮を期待できるのです。

(2)グローバルリーダー開発の2つのレバー(場面と体験の要素)の体系

これまで述べてきましたように、これから世界で通用する人材を一人でも多くグローバルリーダーとして育てなければならないことは自明の理であります。では、なぜグローバルリーダーの育成が追いついていないのでしょうか。その理由、問題点は多岐にわたるかもしれませんが、1つには、グローバル人材への圧倒的な需要増大と高度化に対する初動対応の遅れです。

もうひとつは、人材供給力・調達力の不足が挙げられます。具体的には少子超高齢化の急加速、団塊世代の定年者数の急増、進まないローカル中枢スタッフ、カントリーマネジャーの採用と育成などが挙げられます。

下表は、グローバルリーダーを開発するためのレバー(操作要素)として、場面設定(場作り)としてのプログラム開発(フェーズ別に記述)と体験促進(体験づくり)について、体系として一覧にまとめたものです。ご高覧ください。

グローバルリーダー開発プログラムレバー

最後に

これまで、3回にわたって、本コラムを執筆してきましたが、今年3月から5月にかけて、2社のクライアントさまの海外拠点4ヶ国の出向者及び現地管理者のマネジメント教育の旅に出ます。おりしも、今年の運勢を初詣のおみくじで見ると、「海外出張がますます増える」とありましたが、新年度は延べ日数で30日ほどの旅程です。かくいう私も、国内のみならず、海外、とくに成長著しい東アジアに目を向けた研究・開発活動、そしてコンサルティング活動の場を広げたく思っています。
これからの日本は、未だ経験したことのない、未知なる世界、領域に次々と遭遇するでしょうが、自らの国、そして組織、そして自分自身の価値を少しでも高めて、グローバライズできる人間として自己成長していきたてものです。

最後になりましたが、私のコラムのページを閲覧いただきました読者の皆様には大変感謝をします。これからも、このような執筆機会やお話をする場に向けて、研究・開発活動に精進してまいる所存です。

執筆者略歴

柳原 愛史氏

立命館大学法学部卒、イオン株式会社およびイオングループミニストップ株式会社を経て、学校法人産業能率大学入職。
現在は、成果開発・成長創発型人事システムの構築導入・運用定着・運用改善に関するコンサルテーションや、幹部選抜・育成のためのアセスメント、マネージャー育成のための教育研修等に携わる。

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