組織サーベイの形骸化 第2回 ~“組織サーベイ結果は宝の山” データから「本質的な課題」を掘り当てる技術〜

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多くの企業で導入されている「組織サーベイ」。従業員の声を可視化し、組織の課題を明らかにするための有効な手段として活用されています。しかし、実際には「時間とコストをかけたのに、現場は何も変わらなかった」と感じたことはありませんか?

第2回となる本コラムでは、サーベイ結果を「分析したつもり」で終わらせないために、定量データと自由記述に隠された従業員の”本音”を読み解く具体的な手法をご紹介します。Google社の事例から学ぶ「心理的安全性」の本質や、組織診断フレームワークを活用し、表面的な問題の奥に潜む構造的要因を特定します。

「コミュニケーション不足」という”思考停止ワード”を超えて

組織サーベイの結果を分析すると、多くの企業が「コミュニケーション不足」や「心理的安全性の低さ」という結論に行き着きます。
しかし、これらは課題の本質を捉えているようで、実は思考停止を招く”症状”に過ぎません。たとえば「コミュニケーション不足」という診断の裏には、「部門間の連携を阻害する評価制度」や「情報が意図的に特定層に留め置かれる組織構造」といった、より根深い”病根”が隠れている可能性があります。

こうした背景を無視して、ただ表面的なコミュニケーション施策、たとえば懇親会の費用補助や社内報の活性化といった対症療法を繰り返すだけでは、根本的な解決には至りません。
では、データ分析を通じてこれらの症状から真の病根を探り当てるためには、具体的にどうしたらいいのでしょうか?

定量分析の深化―クロス集計と時系列分析で”異常値”を捉える

全社平均という”霧”を取り払い、組織の解像度を上げるためには、データを多角的に切り分ける技術が不可欠です。その最も基本的かつ強力な手法が「クロス集計」です。

たとえば、エンゲージメントサーベイで「キャリア成長の機会がある」という設問を、部署と勤続年数を掛け合わせて分析することで、特定のグループが抱える課題が鮮明に浮かび上がります。

上のサンプルを見てください。全社平均では見過ごされがちな問題が一目瞭然です。このケースでは「勤続3~7年の開発部門」のスコアが突出して低いことがわかります。
これにより、「全社的なキャリアパスを見直そう」という漠然とした施策から、「中堅クラスの開発職がキャリアの停滞を感じる原因は何か?」という、具体的で的を絞った問いを立てることが可能になります。

加えて、「時系列分析」も有効な手法です。過去のサーベイ結果と比較し、特定の出来事(新人事制度の導入、大規模な組織変更など)の前後でスコアがどう変動したかを確認することで、施策の効果や意図せざる副作用を客観的に評価できます。
これらの定量分析は、どこに問題が潜んでいるのかを特定するための、強力な羅針盤となります。

定性分析の真髄―自由記述は”不満のゴミ箱”ではなく”インサイトの宝庫”

“恨み節の大合唱”と敬遠されがちな自由記述欄。実はそこにこそ、組織のリアルな文化や価値観が映し出されています。
自由記述欄を単なる”不満のゴミ箱”として扱うか、”インサイトの宝庫”として活用するかで、分析の深さは大きく変わります。重要なことは、何が書かれているか(What)だけでなく、それがどのように書かれているか(How)を分析することです。

たとえば、複数の従業員が「会議」に関する不満を記述していたとしましょう。もし彼らが「無駄」「結論が出ない」「時間の浪費」といった言葉を使っていれば、それは非効率なプロセスや官僚的な文化を示唆しています。

一方で「発言しづらい」「意見が無視される」「トップダウン」といった言葉が頻出するなら、問題の根源は心理的安全性の欠如や階層的な組織構造にある可能性が高いでしょう。
前者は会議のファシリテーション研修で改善できるかもしれませんが、後者はリーダーシップのあり方そのものを見直す必要があります。このように、従業員が使う”言葉”そのものをデータとして捉え、その背後にある感情や価値観を読み解くことで、組織文化の診断が可能になるのです。

Google「プロジェクト・アリストテレス」に学ぶ本質の見抜き方

Google社が実施した「プロジェクト・アリストテレス」は、サーベイとデータ分析を用いて組織の本質的な課題を明らかにした代表的な事例です。

彼らは「最高のチームを創る条件は何か?」という問いを立て、当初は「優秀な人材を集めれば最高のチームになる」と考えていました。しかし膨大なデータを分析した結果、意外な事実が判明します。
それは、メンバー個々の能力や経歴、性格といった「誰がいるか(Who)」よりも、「チーム内で誰でも安心して発言・挑戦できるか(心理的安全性)」や「メンバーが互いを信頼し、時間内に質の高い仕事を仕上げるか(信頼性)」といったチーム内の力学、つまり「どのように協力しているか(How)」が、チームの成果を左右する最も重要な要因だったということです。

この事例から学ぶべき最大のポイントは、Google社が発見した要素そのものではありません。彼らがその結論に至った「データに基づき、仮説を検証し、先入観を捨てる」という徹底したプロセスです。

まとめ組織診断フレームワークで課題を構造化する

クロス集計や定性分析によって特定された個別の課題は、そのままでは点在する情報に過ぎません。これらを組織全体の文脈の中で整理し、要素間の構造的な関係性を明らかにするためには、マッキンゼーの「7S」のような組織診断フレームワークが有効です。

このフレームワークでは、組織を7つの要素(戦略、組織構造、システム、スキル、人材、スタイル、共通の価値観)から捉えます。
サーベイで見えた「ソフトなS」(人材の意欲低下、挑戦しないスタイルなど)の問題が、実は「ハードなS」(短期的な成果を過度に重視する評価システム、部門間の連携を阻む組織構造など)とどう結びついているのか。こうした関係性を構造的に可視化することで、より根本的な打ち手へと繋げることができます。

次回は、こうして得られた深い洞察を、現場を巻き込んだ具体的な「行動」へと転換していくための実践論を展開します。

執筆者略歴

斉藤 雅良

株式会社電通総研
HCM本部 HCM戦略コンサルティング部

株式会社電通総研入社以来、主に金融機関様向けの業務・人事・組織構造改革や、そのシステム 開発プロジェクトに多数従事。 近年は、業界問わず人事領域全般におけるコンサルティングプロジェクトに複数参画し、2023年5月より ローンチされたトータルHRソリューション「HUMAnalytics」と、人事基幹システム「POSITIVE」の周辺 サービスに関する企画・推進の統括責任者として、より多くの企業の人的資本経営実現をサポートしている。

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このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。