【第1回】ニューロダイバーシティが拓く未来 – 才能を活かす組織マネジメント

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電通総研は、2024年より人事領域に携わる方々へ向けたイベント「電通総研HRフォーラム」を毎年開催しています。
2025年6月6日には「電通総研HRフォーラム2025」を開催し、HRトレンド講演の1テーマとして『ニューロダイバーシティが拓く未来 — 才能を活かす組織マネジメント』というセッションを設けました。
本コラムでは、講演を全4回に分け、株式会社電通総研 コンサルティング本部 新井ゆかり、福田陽奈子からお届けします。

連載第1回は、冒頭の講演パートのご紹介です。

第1回 ニューロダイバーシティとは ― サマリと概要説明
第2回 組織でニューロダイバーシティを育てる第一歩は?
第3回 相互尊重が生み出す変化 ~現場で起こるポジティブな効果
第4回 ニューロダイバーシティの理念を組織文化へ

ニューロダイバーシティとは

ニューロダイバーシティ(神経多様性)とは、“Neuro”=脳・神経と“Diversity”=多様性を組み合わせてできた言葉です。
「脳や神経に由来する個人の特性の違いを、人のゲノムにおける自然な多様性と捉え、互いに尊重しながら社会や組織の中で生かそう」という考え方を指します(※1)。
この考え方は1990年代の自閉スペクトラム症(ASD)の当事者グループからの発信を機に知られるようになりました。
今では、国内外の企業・組織で、発達特性(※2)にさまざまな特徴のある人のやりがいと強みを引き出すための就労の取組みも始まり、DEIと人材活用の両面で注目を集めています。

個々人の発達特性は、図のように多面的な広がりと度合いのグラデーションをなしており、「多様な発達特性は、すべての人に備わっている」という事実があります。
一方、定型的ではない発達特性の方が仕事などの場で困難に直面し、また社会参加そのものが難しいケースも見られます。
困難さの要因は個人の特性のみによらず、自己理解、周囲との関係性、環境とのマッチングなどの影響が大きいことが知られています。
だからこそ、ニューロダイバーシティ尊重の取り組みは、「多様な発達特性により困難に直面する人への支援」と、それに並行し「全員が神経多様性を“自分ごと”として捉え、相互理解・相互尊重に努めること」が重要です。
この両輪が、良い変化の好循環を生み出すと私たちは考えます。

※1 経済産業省 「ニューロダイバーシティの推進について」より要約
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversity.html
※2 発達特性
発達特性とは、脳の認知や感覚などでの個人差を指すもので、多様な思考やスキルの一部を構成し、その特性の違いで、コミュニケーション、情報処理、学習に各人の特徴的なパターンが現れます。私たちはこのパターンを個々人の特性と捉えることから、本コラムでも「発達障がい/神経発達症(または類する傾向)」とはせず、「発達特性」と表現しています。

ニューロダイバーシティによくある誤解

ニューロダイバーシティは比較的新しい言葉であるがゆえ、受け止め方も多様です。ここでは、組織においてよく見られる誤解と現実を例示します。

・ 「ニューロダイバーシティとは神経発達症(ASD、ADHDなど)の発達特性のあることの言い換え」という誤解。発達特性はグラデーションのように人それぞれであり、0/1でなく、誰もが何らかの特性を持っているという考え方です。

・「ニューロダイバーシティ尊重とは、IT領域での多様な人材(技術者)の活用である」と単純化してしまう誤解。確かにIT領域の先行事例は多いものの、対象はIT人材に特化しません。どんな職場にも関係する考え方です。

・ 「一部の人への施策」という誤解。限定的ではなく、全員のイシューです。

この3点は、ニューロダイバーシティの本質を捉える上で重要なポイントです。

これらを踏まえ、私たちは組織におけるニューロダイバーシティ推進を、「神経多様性による困難を解決し、全ての人が働きやすく才能を活かせる、組織マネジメントのそのものとしての考え方」と捉えています。本講演もこの視点で進めています。

ニューロダイバーシティ尊重による期待効果

1.組織のあり方の変化

組織でニューロダイバーシティを尊重することで得られる期待効果の1点目に、組織のあり方そのものの変化があります。
これまでの組織は、”職場の平均”という枠組みを組織側が規定し、人は平均に合わせて働いてもらう仕組みでした。一方で、ニューロダイバーシティを尊重した組織では、各人の個性や特性を活かすあり方に合わせて、組織自体が柔軟に変わることが求められます。この変化により、個人、組織、社会にポジティブな効果が生まれる期待があります。

・従来(左上): 働く人を、組織の決めた同じ形の箱の中に無理に収めようとし、苦しさを感じる人、入りたくても入れない人がいる組織。
・これから(左下): 組織の側が人に合わせて柔軟に枠の形を変化させ、多様な全員が個人として尊重され、働きやすく、働きがいの感じられる環境が備わった組織。

この「これから」の組織像は、個人の弱みにこだわらず強みを重視する、というマネジメント論の本質(※3)に基づくものでもあります。

2.個人-組織-社会の好循環

2点目の期待効果は、個人-組織-社会の好循環です。

・個人が困難に直面する場面が減り、力を発揮しやすくなる。
・その結果、個人のやりがいが高まり、また組織の生産性も向上する。
・組織で多様な人材が協調することで、新しい価値が創出でき、社会変革をもたらす。
・こうした変化が広がると、社会全体で「誰もが働きやすいこと」というインクルーシブへの機運が高まる。

こうした「三方良し」の好循環が、私たちがニューロダイバーシティ尊重による変革として期待している姿です。

※3 マネジメント論の本質の例:
“組織とは、人の強みを活かし、弱みを意味のないものにするための道具である” ドラッカー 『マネジメント【エッセンシャル版】』より

ニューロダイバーシティの観点をふまえた企業のアプローチ

多様な人材に対し、企業のアプローチはどうあるべきでしょうか。
ニューロダイバーシティ尊重の観点を持ち、人材への適切なアクションを実行する場面は、企業にとって入口である採用だけにとどまりません。働く場所探し、企業との出会い、入社後の順応・定着、キャリアアップや次のキャリアの探索などのフェーズからなる「エンプロイージャーニー」の一連の流れの中で、個人の多様な特性を念頭にマッチングを図るあり方が問われます。こういった全体感を、まず企業側が持つことが重要だと考えています。

企業で取り組む際のよくある迷い

ニューロダイバーシティの理念は広まりつつあります。基本理念や企業の責任は理解しており、自社でも取り組みたいが、いろいろな迷いがある状態で、実際に組織と職場に展開する時点で立ち止まってしまうことも多いのではないでしょうか。

その迷いを、WHY(なぜ/目的)、WHAT(何をするのか)、HOW(どのように)の視点で例示しました。

①WHY(なぜ/目的)
立場によりニューロダイバーシティ尊重への期待や課題感が異なり、それが目的意識の違いとして現れます。「法定雇用率達成のために」と考える方、「卓越したスキルを持つ人材が発見できる」と期待する方、「会社方針としてのダイバーシティ・インクルージョン(DEI)の一環として」という考えの方など、非常にさまざまです。

②WHAT(何をするのか)
「IT業界だけでなく、非IT業界での人材活用は?」「医療的な診断のある人のみが対象?」「海外事例は聞くが、前提の異なる日本企業でも有効?」といった迷いや懸念があり、明確な方針を立てにくいケースがあります。

③HOW(どのように)
具体的なアクションとして、「環境作りや合理的配慮はどうすべきか」「採用のあり方はどう変わるか」など考えるべき課題が多く、「何をしたら良いのか」「どこまでやるべきなのだろう」「とにかくできることからか…」と悩み、踏み出せない状況も耳にします。

おわりに

ニューロダイバーシティの考え方、企業でのさまざまな迷いの仮説をご紹介しました。これからの連載では、パネルディスカッションについてお伝えします。

次回は、知識と経験を持つパネリストの対話から、「ニューロダイバーシティを尊重した組織マネジメントで才能を活かすとは?」のリアルな話題をご提供します。
本コラムの内容が皆様の組織でのアクションにつながるきっかけになれば、とても嬉しく思います。そのことは、この講演を設けた私たちの動機でもあります。


執筆者

新井ゆかり
株式会社電通総研
コンサルティング本部

 

 

福田陽奈子
株式会社電通総研
コンサルティング本部

 

 

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このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。