【第4回】ニューロダイバーシティの理念を組織文化へ 人事キーワード・ノウハウ連載 公開日:2026年03月11日(水) 2025年6月6日に開催した「電通総研HRフォーラム2025」。 本連載は『ニューロダイバーシティが拓く未来 ― 才能を活かす組織マネジメント』をテーマに、多彩なセッションが設けられたフォーラムの、パネルディスカッションの内容をご紹介しています。 最終回となる第4回は、パネルディスカッションの3つ目のテーマ「実現手段はなにか?」に加え、質疑応答とクロージングメッセージを通じて、理念を組織文化として根付かせるための事例や考え方をお伝えします。 <その他の連載回はこちら> 第1回 ニューロダイバーシティとはーサマリと概要説明 第2回 組織でニューロダイバーシティを育てる第一歩は? 第3回 相互尊重が生み出す変化 ~現場で起こるポジティブな効果 第4回 ニューロダイバーシティの理念を組織文化へ ※HRフォーラム2025講演当時(2025年6月時点)の情報を掲載しています。 目次実現手段は何なのか? 質疑応答 クロージング:登壇者からのメッセージ発信者より 実現手段は何なのか? 組織のニューロダイバーシティ実現には、採用段階~入社後の環境の整備など様々な取組みが必要です。就労支援企業として「人材を送り出す側」の大野さん、特例子会社として「受け入れる側」を経験された清水さん、それぞれの立場で「採用での業務マッチング」「入社後の環境整備」をお話いただきました。 大野氏: パネルディスカッションのテーマ2で、コミュニケーションのインターフェースの話がありましたが、採用面接はまさにコミュニケーションの場です。従来型のコミュニケーション重視の面接を苦手とする人、適性検査で特徴が平均的な傾向から大きく離れていると判断され、採用から漏れる人も多くいます。実際、診断のある方と一緒に採用準備をしていると、面接の作法に合わせて何回も練習をし、口頭説明が難しい場合はポートフォリオで自分のスキルを表現するなど、インターフェースを合わせるために本当に一生懸命準備をしています。 当事者の皆さんが歩み寄る努力をしていることに対し、採用する側はどう受け止めるか、ということだと思います。 清水氏: 面接では、当事者は極端に緊張しています。面接する側が、特性から「きっとこの人はこうだろう」とマイナスに決めつけることは、まずは避けるべきです。そして「その人が得意なことは何か」の発見に努めることで、採用でのマッチングに成功すると考えます。これはニューロダイバーシティ観点だけでなく、どんな場合でも一緒で、決めつけや思い込みを取り払い、一個人間の対話を重視した面接をすることで、その方の良い点や活かせるところが見いだせます。 大野氏: 障害者雇用に限らず、一般就労でも同じだと思います。また、特性を自認しているが、一般就労で就職活動をしている人はとても多いです。しかし、一般就労を目指して自分はやっていけるのか、配慮が得られるかという不安や、障害者雇用を選ぶことで希望していた仕事内容が制約されることへの不安を感じています。そうした方の選択肢がないことは問題です。 「特性を伝えたらネガティブに思われるのでは」という社会的スティグマがまだあります。自分の特性を開示し、やりたいことやできることをフラットに伝えられるようになることが、ニューロダイバーシティ社会の第一歩だと考えます。 清水氏: おっしゃる通りです。皆さんに働く意欲と意志はあっても、自己理解の度合いは人によって異なります。その状況で、どの就労枠かは当事者にとって大問題です。意欲や意志を見せるのが不得手な方も表現できるステップが必要ですよね。 大野氏: 新卒全員をいきなり全てニューロダイバーシティ枠にすることは無理でしょう。企業としては一定の同質性を担保し、かつ同質な人ばかりにならないことが重要です。たとえば、ニューロダイバーシティ枠を設け、一律の適性試験に合わなかった人の中から決めた人数を採用、ということもできそうです。 関島: ニューロダイバーシティの取り組みが進んでいるという企業を見学して共通していたのは、ニューロダイバーシティ推進の目的が障害者雇用の法定雇用率達成にあるとは全く思っていないことです。その会社が入って欲しい人を採用しようとしている。私も人事部長として多くの採用面接をしてきましたが、コミュニケーション重視の面接への反省も感じました。 面接後に採用し、入社した後の環境整備について、清水さんいかがでしょうか。 清水氏: 企業がニューロダイバーシティに取り組もうとしたとき、合理的配慮の程度や既存制度との関係に迷いますよね。そこは個々の対話が必要です。当事者も自らの主張が全て通らないことは理解しています。押し付け合うのではなく、「ここまでならできる」「これ以上は難しい」を対話して、「こうした方がより良い」を実現していくことが“合理的配慮”だと思います。 合理的配慮は福祉ではなく、会社の戦力として活かせる人材を育てるために必要な取り組みです。 新井: 環境整備でバリアフリー的な都度対応をしても、どうしても部分的になります。マイノリティ性は全員にあるからこそ「ユニバーサルにどうするか」で考えることで、誰にでもある「仕事のここがつらい」というミクロな大変さも解消し、全員に貢献するのではと思います。 質疑応答 会場の皆様からの質問3件に回答しました。 <Q1>ニューロダイバーシティの推進の意義に対して懐疑的な層、無関心な層、特に自分事ではないと考える層をどのように巻き込んでいくことができるでしょうか。 清水氏: 上位層や周囲に理解してもらうことはとても難しいですよね。言葉だけでは足りないので、リアルな状態を見せて実感してもらうことも大切です。人は特性によらず同じであること、その人ができることを見せると認識が変わります。一度認識が変わると勢いが付くので、分かってもらえるまで継続してください。一人ひとりの推進の頑張りどころです。 大野氏: ニューロダイバーシティは当事者運動から始まりました。文科省の2022年の8.8%というデータ(※1)からも、自身や身近に当事者性のある方は必ずいる。当事者性を持ち共感する方々を味方にしてムーブメントを作っていけるとうねりが始まるのではないか、と思っています。 ※1 「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)」 https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.htm <Q2>制度設計、業務設計を決めるときに着目する観点や当事者の声の取り入れ方を教えてください。 大野氏: ピンポイントで業務と人材の定義をしても、ぴったりの人は来ません。「最低限、何ができてほしいか」を決め、実践して業務設計をブラッシュアップする、という行き来が必要です。 清水氏: 人というのは感動するほど成長します。できることが増えるなどスキルも変わるので、数年単位で制度も見直します。最初に決めた定義が何十年も続くことはあり得ないと考えておくべきです。 <Q3>当事者本人に、自分の特性を理解してもらうことが戦力化に重要と考えます。パネリストの皆様はどのようにお考えでしょうか。 清水氏: 自己理解は人によりまちまちですが、過度に自分を低く見積もる自己肯定感の低い方も多いです。自身の強み弱みを質問しても口頭でうまく表現できず、また弱みを伝えたらクビにならないかという不安から言いづらいと感じてしまうこともあります。 まずは簡単なアンケートを書きながら会話をし、面談を続けて関係を深めていきます。人間関係ができたら、本人に伝わるよう配慮しながらその人のあり方をフィードバックし、自己理解を促進していました。 クロージング:登壇者からのメッセージ ディスカッションの第3のテーマ「実現手段はなにか」の議論と質疑応答をお伝えしました。 特性で人を決めつけないこと、押し付け合わず対話で歩み寄ることの重要さを共有しました。ニューロダイバーシティの理念を組織文化として根付かせると、全員が尊重される組織になることが期待できます。重要性は分かっていても、迷いを持つ企業も多いと思います。ひとつの企業ではできないこともチームとして連携することでムーブメントを起こし、多様性による変化を実現していきましょう。 発信者より 本連載をお読みいただき、ありがとうございました。この発信が、社会レベルでのニューロダイバーシティ尊重の実現に向けた組織や企業の協調を作り出すきっかけとなれば、と心より願っています。 執筆者 新井ゆかり 株式会社電通総研 コンサルティング本部 福田陽奈子 株式会社電通総研 コンサルティング本部 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。 ※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。