AI活用は「点」から「面」へ。人事・経営企画が取り組むべきHR×AI戦略とは

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生成AIの進化により、企業におけるAI活用のあり方が変わり始めています。これまでのAIは、資料作成や情報検索、問い合わせ対応など、個別業務を効率化するツールとして活用されることが中心でした。
しかし現在では、目的を理解し、必要なデータやツールを使いながら業務を進める「AIエージェント」の活用が進んでいます。AIは、単に人の作業を代替する存在ではなく、人と協働しながら業務や意思決定を支援する存在へと進化しつつあります。
この変化は、人事部門にも大きな影響を与えます。人事におけるAI活用は、採用や人材配置などの個別業務を効率化するだけではありません。経営戦略、人事戦略、組織文化、従業員一人ひとりの成長をつなぎ、企業全体の意思決定を支援することが期待されています。

本記事は、2026年7月8日に開催した「dentsu Japan AI DAYS 2026」で紹介した内容の一部を抜粋し、記事として再構成したものです。AI活用における人事業務の変化や、これからの人事部門に求められる役割などを詳しく解説します。

AI活用は「点の効率化」から「面の変革」へ

生成AIの活用が広がるなか、多くの企業がまず取り組んでいるのは、個別業務の効率化です。AIを活用することで、日々の業務負担を軽減できた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
一方で、個別の業務だけを効率化しても、企業全体の生産性や競争力が大きく向上するとは限りません。なぜなら、個々のタスクが効率化されても、その前後にある業務や、関連する部門との連携が従来のまま残ることがあるためです。

個別タスクの効率化(点)が抱える限界

例えば、人事部門が応募者情報の整理にAIを導入したとします。書類の確認や候補者の絞り込みにかかる時間は、短縮できる可能性があります。
しかし、その後の面接、配属、育成、入社後の定着までのプロセスが従来のままであれば、採用から入社後の活躍までを含めた全体の成果が大きく変わるとは限りません。採用業務だけを効率化しても、入社後に必要なスキルが身に付かなかったり、配属先とのミスマッチが起きたりすれば、企業が得られる価値は限定的です。
個別タスクの効率化は、目に見える成果を出しやすい一方で、業務全体の流れや意思決定のあり方まで変えるものではありません。AI活用を部分的・一時的な改善で終わらせないためには、個別の業務にとどまらず、プロセス全体を見直す視点が求められます。

業務プロセス全体を再設計する「面」の捉え方 

これからのAI活用では、AIを単なる業務効率化ツールと捉えるのではなく、複数の業務をつなぎ、事業を再設計する「面」での対応が必要です。
AIを複数の業務や部門に広げるだけではありません。AIを前提として、業務プロセスや組織のつながりそのものを再設計することです。
人事領域で考えると、採用、配置、育成、評価、エンゲージメントをそれぞれ独立した業務として捉えるのではなく、人材が入社し、組織に適応し、成長し、活躍するまでの一連の流れとして捉え直す必要があります。

人事部門は「情報管理」から「意思決定エンジン」へ 

では、人事領域ではどのような形でAIを活用していけばよいのでしょうか。

これまでの人事部門は、従業員情報、所属、職務、評価、異動、研修履歴などを正確に記録・管理する役割を担ってきました。
一方で、経営環境や事業環境の変化が速くなるなか、過去の情報を管理するだけでは、将来の人材課題に十分対応できない場面が増えています。

例えば、現在このような課題を抱えていませんか。
「人材不足への対応が後手に回ってしまう」
「経営環境の変化の速さに追随できない」
「人材配置や育成を最適化しても、組織文化が障壁となり、現場に受け入れられない」
こうした課題に対し、人事部門は提供価値を変えていくべきだと考えています。

これからの人事部門には、AIを活用しながら、経営戦略を実現するための人材戦略をリアルタイムで設計・実行する「意思決定エンジン」としての役割が期待されます。
ここで重要なのは、人事の判断をAIにすべて任せることではありません。AIが大量のデータを整理・分析し、複数の選択肢や示唆を提示し、その情報をもとに、人事や経営、現場の責任者が意思決定をするという関係です。

人事は、情報を管理する部門から、経営・事業・従業員をつなぎ、よりよい意思決定を支援する部門へと役割を広げていく必要があります。

経営×人事×組織文化をAIで融合する「HR×AI」アプローチ

AI時代の人事を考えるうえで重要なのが、経営戦略、人事戦略、組織文化を一体的に捉えることです。
経営戦略が変われば、必要な人材や組織能力も変わります。人事戦略が変われば、採用、配置、育成、評価のプロセスも見直す必要があります。そして、制度を変えるだけでなく、従業員が変化を受け入れ、行動に移せる組織文化を形成することも欠かせません。
この3つが別々に動いていると、経営が目指す方向と、人事施策、現場の行動との間にずれが生じます。AIは、これらの情報を結び付け、継続的に状況を把握しながら、意思決定を支援する役割を果たします。
つまり、AIをハブとして、経営、人事、組織文化が相互に連携し、継続的に進化する仕組みをつくることが、HR×AIの重要な考え方です。

経営戦略と人事戦略を連動させる

経営企画部門が新規事業や事業構造の転換を検討していても、実現に必要な人材やスキルが明確でなければ、具体的な人事施策に落とし込むことは難しくなります。
反対に、人事部門が研修や採用を進めていても、事業の方向性と結び付いていなければ、施策が事業成果につながらない可能性があります。
AIを活用することで、事業計画と人材データを関連付け、次のような問いを検討しやすくなります。

新しい事業を進めるために、どのようなスキルが必要か
現在の組織には、どのスキルがどれだけ存在するか
不足するスキルを採用・育成・配置のどの方法で補うか
どの人材をどの事業やポジションに配置すると効果的か

人的資本経営においても、人的資本の情報を開示するだけでなく、経営戦略の実現に向けて人材をどのように活用するかが重要です。経営企画と人事が共通のデータや指標をもとに議論できれば、経営戦略と人事施策の距離を縮められます。

組織文化を可視化し、継続的な組織開発につなげる

組織文化は、研修や社内報、経営メッセージだけで形成されるものではありません。日々のコミュニケーション、部門間の協働、会議での意思決定、上司と部下の関係など、日常の行動に表れます。
従来は、組織文化やエンゲージメントを年1回程度のサーベイで把握することが一般的でした。しかし、調査の実施間隔が長いと、組織の変化や問題の兆候を把握するまでに時間がかかります。
AIを活用すれば、サーベイ結果や業務データ、組織間のコミュニケーションなどを組み合わせ、組織の状態を継続的に分析できる可能性があります。

例えば、次のような変化を把握することが考えられます。
部門間の連携が停滞している
特定の組織に業務や情報が集中している
コラボレーションが十分に生まれていない
組織変革に対する不安や抵抗が広がっている
離職につながる兆候が見られる

ただし、人事データやコミュニケーションデータを扱う際には、従業員の監視につながらないよう配慮が必要です。利用目的を明確にし、データの取り扱い、匿名性、アクセス権限、本人への説明、AIの分析結果の利用方法などを定めなければなりません。

人事業務はAIでどう変わるのか

AIは、人事担当者の仕事をすべて代替するものではありません。定型的な処理や大量の情報分析をAIが支援し、人は対話や判断、説明、組織開発などに注力するという役割分担が基本になります。
人事業務では、採用、配置・異動、人材分析、育成・オンボーディング、評価、エンゲージメントといった幅広い領域で、次のような変化が想定されます。

項目 As-Is To-Be
採用 欠員補充が中心。人事が手作業で求人作成・面接調整。 将来の事業ポートフォリオから必要な人材を予測し、先行採用。AIが候補者の発掘・適性分析を支援し、人は候補者体験の向上に注力。
配置・異動 人事部門の経験・勘・過去の実績に依存。 スキル、キャリア志向、将来の成長可能性、プロジェクト需要をAIが統合し、最適な配置をシミュレーションして提案。
人材分析 過去データの集計・分析(ダッシュボード化にとどまる)。 将来シミュレーション。将来の離職リスク、人材不足、スキル需要を予測し、具体的な打ち手をプロアクティブに提案。

人材育成・オンボーディング

一律の研修、画一的なマニュアル、自己申告中心。 AIがスキルギャップを分析。新入社員ごとに学習計画・メンターを最適化し、キャリア目標に応じた学習機会や副業を提案。
人事評価 管理職が評価を行うため、ばらつきが大きい。過去の実績のみを評価。 AIが成果・行動・360度評価を要約・分析。客観的な評価コメントや次期の育成計画を自動で提案。
エンゲージメント   年1〜2回のサーベイ分析による事後対応。    Teamsやメール、パルスサーベイなどの行動データをAIが継続的に分析し、組織課題や離職リスクを早期に検知(Culture Intelligenceの活用)。

電通総研が考えるHR×AIとは

電通総研が考えるHR×AIは、人事業務を自動化するための仕組みにとどまりません。経営戦略、人事戦略、組織文化をAIでつなぎ、企業の成長と個人の成長をともに実現するための基盤として捉えています。
従来の人事は、企業の方針に沿って人材を配置・管理する側面が強くありました。これからは、企業が必要とする人材を確保するだけでなく、従業員一人ひとりが持つスキル、経験、キャリア志向、可能性にも目を向ける必要があります。
目指すのは、企業の成長と個人の成長が互いに影響し合いながら価値を高めていく状態です。
従業員が自身の能力を生かして成長し、その成長が事業や組織の成果につながる。そして企業の成長機会が、さらに従業員の新たな挑戦やキャリア形成を支える。この循環をAIによって支援していくことが、HR×AIの重要な方向性です。

電通総研では、このような「個人と企業が共に成長するためのプラットフォーム」を、これからの働き方の姿として「はたらく5.0」と表現しています。
「はたらく5.0」は、AIやテクノロジーによって人の仕事を単純に置き換えることを目指すものではありません。AIと人が協働し、それぞれの強みを生かしながら、個人の成長、企業の成長、社会の持続可能性をともに実現していく考え方です。
AIによって業務の効率化や生産性向上を図るだけでなく、働く人の多様性やウェルビーイングにも目を向ける。個人と企業、企業と社会がよりよい関係を築きながら、持続的に成長していく。そのような未来の働き方を実現するための考え方が、「はたらく5.0」です。

「AIを導入する企業」から「AIを前提に進化する企業」へ

ここまで、人事領域におけるAI活用を解説してきました。

AI活用を一時的な業務改善で終わらせないためには、企業のバリューチェーン全体を支える仕組みとして、複数の部門をつなぎ合わせることが大切です。
各部門でAI導入を進めても、局所的な改善にとどまってしまいます。
AIを企業の中に組み込むためには、AIそのものだけでなく、データ基盤、業務プロセス、組織体制、ガバナンスを一体的に整える必要があります。

電通総研は、深いドメイン知識、企業ごとに蓄積された独自のデータ、AIを活用した技術力、業務変革を推進する実行力を組み合わせ、企業のバリューチェーン全体を変革することを目指しています。

経営・事業・従業員をつなぐAI活用について、自社では何から始めるべきか、どのようなデータや仕組みが必要なのかを検討したい方は、ぜひ電通総研へご相談ください。

AI活用を自社の成長につなげる方法や、HR領域における具体的な可能性について、まずはお気軽にお問い合わせください。

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※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。