【第3回】「お気に入り人事」からの脱却|データドリブンな人材発掘と組織の熱量を守る仕組みとは?

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はじめに——「あの人は優秀だから」で本当に説明がつくのか

第2回では、未来の事業戦略から逆算して「どんなリーダーが必要か(人材要件)」を明確にすることの重要性についてお話ししました。では、その要件という物差しを手に入れたあと、全社員の中からふさわしい候補者をどうやって見つけ出すのでしょうか。
ここで多くの企業がぶつかるのが、「あの人は優秀だから」という役員や部門長の記憶と直感に頼った選び方です。コーポレートガバナンスが厳しくなるなか、取締役会で「なぜこの人物が後継者候補なのか」と問われたとき、主観的な評価しか出せないようでは、ステークホルダーへの説明責任を果たしているとは言いにくい状況です。

「自分と似た人」ばかりが推薦される構造

現場のトップが推薦する人材は、多くの場合、「自分と似たタイプ」や「自分の指示を忠実にこなしてきた部下」に偏ります。これは人間の心理として避けがたいバイアスですが、その結果、経営陣の同質性がそのまま再生産されていきます。
未来の非連続な成長を引っ張るには、既存の枠組みを壊せるような異質な人材や、まったく異なる領域の経験を持つリーダーが必要になるかもしれません。ところが、主観や記憶頼みの「お気に入り人事」では、そうした埋もれた原石、すなわちポテンシャルはあるものの目立つポジションにいない人材は推薦リストに上がってきません。選考プロセスがブラックボックス化した状態は、組織の多様性や新しい発想の芽を静かに摘み取っているのと同じです。

主観だけでなく客観データを掛け合わせた人材選抜へ

このブラックボックスを壊すには、「データドリブンな人材発掘」へ切り替えていく必要があります。

未来の要件(コンピテンシーや志向性)に合う人材を探すためには、現在の上司による評価だけでは足りません。客観的なアセスメントデータ(性格特性やリーダーシップポテンシャルなど)、過去の異動履歴、携わったプロジェクトの難易度(修羅場をどれだけ経験しているか)、本人のキャリア志向などの多角的なデータを突き合わせることで、初めて立体的に人材を見ることができます。
ポイントは、主観を完全に排除することではありません。主観に客観的なデータという根拠を掛け合わせることで、「なぜこの人が候補なのか」という議論がフェアに成り立つようになります。プロセスの透明性は、こうして担保されます。

未来の経営陣を見つけるためのタレントマネジメントシステムの使い方 

とはいえ、数千人、数万人規模の従業員データをExcelだけで管理し、掛け合わせて分析するのは現実的ではありません。そこで必要になるのが、タレントマネジメントシステムという基盤です。
戦略人事がうまく回っている企業では、システム上で全社員のスキルや経験、アセスメント結果などが一元管理されています。そして、未来の要件に合致しそうな人材に対しては、システム上で「サクセッション候補」のフラグを立て、その後どのような経験を積み、どう伸びているかを継続的に追いかけています。タレントマネジメントシステムは、単なる人事データベースではなく、未来の経営陣を見つけ出し育てるための「レーダー」として機能するものです。

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候補者リストに選ばれなかった人材のモチベーションをどう保つか

 

データに基づく透明性の高いプロセスは、取締役会への説明責任を果たすためだけのものではありません。実はこの「透明性」が、組織全体のエンゲージメントにも直結します。
サクセッションプランニングを進めるうえで、CHROや経営陣が最も恐れるリスクの一つが、候補者リストから漏れた優秀層のモチベーション低下、そして離職です。会社を実質的に支えているのは、トップの椅子を争う一部の人材だけではありません。多くの優秀なミドル層やスペシャリストたちです。彼らの熱量を削ぐような後継者選びは、将来の業績低下というダメージを残すことになります。
ここで重要になるのが、選抜プロセスの透明性です。未来の経営に必要な要件が明文化され、客観的なデータに基づいて選抜が行われていることが組織の中で認知されていれば、たとえ今回選ばれなくても「自分にはこの経験が足りなかった」と腹落ちできます。この納得感が、不満を「次に向けた成長のエンジン」に変えていく原動力になります。
さらに、後継者候補に対して意図的にタフアサインメントや未経験部門への異動を設計すれば、組織の中に健全な人材流動性が生まれます。ポジションが固まって動かなくなっていた組織に風穴が開き、後任として若手にも新たな挑戦機会が回ってきます。「この会社にいれば、フェアな評価のもとで挑戦と成長の機会がある」という実感は、エンゲージメントを大きく押し上げていくのです。

まとめ 

サクセッションプランニングは、やり方次第で組織の熱量を高める最良のエンゲージメント施策にもなり得ます。データドリブンな透明性と、戦略的な人材配置。この両方が揃ったとき、サクセッションは「一部のエリート選び」から「組織全体を前に進める仕組み」へと変わります。

最終回となる次回(第4回)では、これまでの要素を統合し、経営陣が自社の人材パイプラインをどのようにモニタリングし、持続的な企業価値の向上につなげていくのか、その「可視化と運用の仕組み」についてお話しします。

執筆者略歴

斉藤 雅良

株式会社電通総研
HCM本部 HCM戦略コンサルティング部

株式会社電通総研入社以来、主に金融機関様向けの業務・人事・組織構造改革や、そのシステム 開発プロジェクトに多数従事。 近年は、業界問わず人事領域全般におけるコンサルティングプロジェクトに複数参画し、2023年5月より ローンチされたトータルHRソリューション「HUMAnalytics」と、人事基幹システム「POSITIVE」の周辺 サービスに関する企画・推進の統括責任者として、より多くの企業の人的資本経営実現をサポートしている。

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