役職定年とは?メリット・デメリットや実態、事例を解説 人事キーワード・ノウハウ 公開日:2026年08月12日(水) 役職定年とは、決められた年齢に達した段階で社員が役職を退く制度です。主に大企業で導入されてきましたが、近年は廃止や見直しを進める企業も増えています。 本記事では、役職定年の概要や定年との違いを解説します。続いて、役職定年のメリット・デメリットを整理し、最後に企業の導入状況や事例をご紹介します。 目次「役職定年」とは決められた年齢に達したら役職を退く制度役職定年のメリット役職定年のデメリット役職定年の実態・事例役職定年制に代わる「役職任期制」まとめ 「役職定年」とは決められた年齢に達したら役職を退く制度 役職定年とは、課長や部長などの役職に定年を設定し、その年齢に達したら自動的に役職を離れる制度のことです。役職を離れた後は専門職・一般職など、別の職位に就くことが一般的です。 役職定年は、1994年の法改正で定年が60歳に引き上げられたことを契機に、多くの企業で広まりました。定年延長による人件費増加や役職の固定化を防ぎ、組織の新陳代謝を維持することが目的の制度です。 役職定年と定年の違い 役職定年は役職を離れる年齢を定める制度であるのに対し、定年は雇用契約そのものが終了する年齢を定める制度になります。 現在は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」に基づき、企業は65歳までの雇用機会を確保することが義務付けられています。 2025年4月に法律の経過措置が終了したことに伴い、会社独自の基準で対象者を絞ることができなくなりました。そのため、現在は希望する従業員全員に対して65歳までの雇用機会を確保することが必須となっています。 企業は「65歳までの定年延長」が義務化されたのではなく、「希望者には65歳までの雇用機会を与える」ことが義務化されたことになります。また、すでに2021年4月から、70歳までの就業機会の確保が努力義務となっているため、企業は定年の引上げや廃止を引き続き検討する必要があります。 出典:厚生労働省「高年齢者の雇用」 厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」 役職定年は何歳から? 役職定年の年齢は企業によって異なりますが、一般的に55歳から60歳であり、割合としては55歳が一番高くなっています。 以下は令和5年に人事院が調査した、部長級・課長級に役職定年制がある企業の、役職別、役職定年年齢別企業数割合です。部長級・課長級ともに役職定年を55歳とする企業が最も多く、次いで60歳とする企業が多くなっています。 また、以下は令和5年に人事院が調査した、定年年齢が61歳以上で、部長級・課長級に役職定年制がある企業の、役職別、役職定年年齢別企業数割合です。定年年齢が61歳以上の企業では、部長級・課長級ともに役職定年を60歳とする企業の割合が最も高く、60%以上となっています。 以上のことから、一般的な役職定年の年齢は55歳前後ですが、定年年齢の引上げに伴い、役職定年の年齢も合わせて高くなる傾向にあるといえます。 出典:人事院「民間企業の勤務条件制度(令和5年調査結果) Ⅱ 調査結果」 役職定年のメリット 役職定年には、企業と従業員の双方にそれぞれ異なるメリットがあります。ここからは、企業側と従業員側の視点から、役職定年のメリットを解説いたします。 企業側のメリット:管理職ポストの新陳代謝の促進、人件費の抑制 役職定年を導入することで、企業は管理職ポストの新陳代謝を促しつつ、人件費を抑制することができます。 まず、管理職の新陳代謝についてです。管理職ポストが長期間固定されると、次世代の昇進機会が限られ、組織の硬直化につながります。役職定年を設けることで管理職ポストが定期的に空き、若手・中堅の昇進機会を確保できるため、組織の活性化や若手の離職防止、次世代リーダー育成といった効果が期待できます。 次に、人件費の抑制についてです。管理職は一般職よりも固定給が高く、年功序列型の報酬体系では、管理職給与はより高額化する傾向にあります。役職定年により、一定年齢から管理職手当を抑制できるため、組織全体の人件費の見通しを立てやすくなり、適正な人員配置や予算管理につながります。 従業員側のメリット:ワークライフバランス改善、専門性を活かしたキャリア継続 役職定年により管理職を離れた従業員は、管理職特有の重い責任や高い業務負荷から解放されます。その結果、ワークライフバランスが改善され、セカンドキャリアに向けた準備に時間を充てることも可能になります。 また、管理職が必ずしも本人の強みに合っているとは限りません。役職定年を契機に、専門性を活かした業務や後進育成など、本人の能力や適性を最大限に発揮できるポジションへシフトできることも大きなメリットです。 加えて、若手や後進にとっても、役職定年によって管理職ポストが空くことで昇進やキャリアの展望が開けるため、モチベーション向上につながります。 役職定年のデメリット 役職定年は上記のような多くのメリットがある一方、デメリットもあります。ここからは、企業側と従業員側の視点から、役職定年のデメリットを解説いたします。 企業側のデメリット:組織のパフォーマンス低下リスク、制度運用の難しさ 役職定年による企業側のデメリットは、主に組織のパフォーマンス低下と制度運用の難しさが挙げられます。 まず、組織のパフォーマンス低下についてです。役職定年では、現管理職の能力がいかに高くても、一定年齢に達すれば役職を離れなければなりません。後任の管理職が同等のスキルを持っていれば問題はありませんが、そうでない場合、組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼすこともあるでしょう。また、経験豊富で優秀な人材のモチベーションが低下し、転職を検討するケースも見られます。 次に、制度運用の難しさです。役職定年は、年齢を基準に一律で役職を退任させるため、能力や成果を無視することになり、従業員に不公平感を抱かせることがあります。また場合によっては、運用方法によっては、能力や成果より年齢が重視されていると受け取られる可能性があります。 従業員側のデメリット:収入の減少、キャリア停滞感などの心理的影響 役職定年による従業員側のデメリットは、主に収入の減少とキャリア停滞感などによる心理的影響が挙げられます。 まず収入面では、役職定年後に管理職手当や役職手当がなくなるため、年収が大きく下がるケースが多く、生活設計や老後資金に影響することもあります。 次に、心理的影響です。役職定年を「昇進の終わり」と捉え、社内で活躍の場がなくなったように感じて、モチベーションが低下することがあります。 実際に、リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、ポストオフ(一律の年齢や期間で組織長などの役職を外れること)を経験した人のうち、一度はやる気が下がった人は約6割に上ります。さらに、部長級・課長級のポストオフ経験者では、やる気が下がったままの人の割合が最も高く、約4割という結果でした。 役職定年後のモチベーション低下を防ぐためには、新たなキャリアやポストの設置、柔軟な働き方の選択肢を提供するなど、多様な活躍機会の創出が求められます。また、職位に関わらず従業員エンゲージメントを高める施策として、リスキリング支援やエンゲージメントサーベイの実施、組織内コミュニケーションを活性化するイベントの開催など、継続的な取り組みも重要です。こうした施策を組み合わせることで、従業員が自らの役割に価値を見出し、長期的に高いパフォーマンスを発揮できる環境づくりにつながります。 出典:リクルートマネジメントソリューションズ「ポストオフ・トランジションの促進要因 −50〜64歳のポストオフ経験者766名への実態調査」をもとに作成 役職定年の実態・事例 これまでご紹介してきた内容のとおり、役職定年にはメリットとデメリットの両方があります。また、近年は定年の引上げや、能力や成果を重視した人事制度を導入するなど、企業の対応は多様化しています。 こうした状況を踏まえ、ここからは役職定年に関する企業の動向・事例について解説いたします。 役職定年に関する企業の動向 はじめに、役職定年の導入状況と企業の動向について解説いたします。 令和5年の人事院の調査によると、事務・技術系職種の従業員がいる企業のうち、「役職定年がある」企業は全体で16.7%、企業規模500人以上の企業では27.6%に上ります。 役職定年を今後も継続する方針の企業は全体で15.9%、企業規模500人以上の企業で26.0%と、役職定年を導入している企業の約95%を占めています。一方、企業規模500人以上の企業では、役職定年の廃止を検討またはすでに廃止した企業が9.0%、導入を検討している企業は5.9%という結果でした。 このことから、役職定年をすでに導入している企業は制度を継続する傾向が強いものの、特に大企業では新規導入よりも廃止を検討する企業の方が多く、役職定年制度の在り方を見直す企業が増えていると考えられます。 出典:人事院「民間企業の勤務条件制度(令和5年調査結果) Ⅱ 調査結果」 役職定年に関する企業の事例 続いて、役職定年制度を見直した企業や、人材活用の観点から制度改革を進めた企業の事例をご紹介します。近年、新たに役職定年を導入する企業は少なく、制度の廃止や運用の見直しが主流となりつつあるため、本記事ではそうした事例に焦点を当てて解説いたします。 以下は厚生労働省が公表したヒアリング結果に掲載されている、高齢者の人事・給与制度の工夫に取り組む企業14社のうち、特徴が異なる3社の事例です。川崎重工業株式会社は、幹部職員の人事制度改定に併せて役職定年を廃止し、ポスト任期制を導入しました。YKK株式会社では、定年制を廃止するとともに、役員等の一部ポストを除き役職定年も廃止しました。三菱UFJ信託銀行株式会社では、役職定年は継続した上で、60歳定年後の再雇用制度の中に「シニアジョブコース」を設置しています。 出典:厚生労働省「高齢者の活躍に取り組む企業の事例を公表します 高齢者の活躍に取り組む企業の事例集の展開」 これら3社の事例から見えてくるのは、役職定年の有無そのものよりも、人事制度が企業理念や人材戦略と整合しているかどうかが重要だという点です。さらに、3社とも役職定年制度の維持もしくは変更に際して、職務定義や処遇体系の見直しを同時に行っており、制度単体で機能させていないことが共通しています。 以上から、今後の企業に求められることは、単なる役職定年や定年制度の延長・廃止ではなく、自社の文化や実態に即し、役割定義や評価の透明性、待遇の納得感などを踏まえた総合的な人事制度の設計を行うことだと考えられます。 役職定年制に代わる「役職任期制」 最後に、役職定年制に代わる人事制度の一例として、役職任期制について簡単にご紹介します。 役職任期制とは、課長や部長などの管理職に対して、「役職に就ける期間(任期)」をあらかじめ定める制度です。任期中の能力や成果を踏まえ、任期終了後には再任、昇進、異動などの処遇が判断されます。役職に任期を設けることで管理職ポストの流動性を確保できるほか、次世代リーダー育成の機会創出や、成果を上げている優秀な人材を再任する柔軟な運用も可能になります。 実際に、人事制度の見直しの一環として役職定年制を廃止し、代わりに役職任期制を導入することで、年齢ではなく役割や能力に基づいてポストを決定する仕組みに移行した企業も見られます。 出典:厚生労働省「高齢者の活躍に取り組む企業の事例を公表します 高齢者の活躍に取り組む企業の事例集の展開」 まとめ さてここまで役職定年の概要やメリット・デメリット、最近の企業の事例等を解説して参りました。役職定年には、人件費の抑制や組織の新陳代謝促進というメリットがある一方、社員のモチベーションや組織のパフォーマンス低下などのデメリットもあります。役職定年のメリット・デメリットや事例を正しく把握し、自社の文化や現状を整理した上で、今後の制度について検討していきましょう。 電通総研の統合HCMソリューション「POSITIVE」は、役職定年制度の導入・廃止といった人事制度の変化に柔軟に対応できる機能を多数備えています。離職理由や継続雇用希望の詳細管理、履歴情報の一元管理、後継者育成や人材配置のサポートが可能であり、制度変更に伴う業務負荷を大幅に軽減します。この機会に電通総研の「POSITIVE」をご検討いただけますと幸いです。 人材情報を一元管理する方法はこちら 執筆者略歴 伊藤 真幸 株式会社電通総研 HCM本部 HCMソリューション企画開発部 新卒で入社以来、大手企業向け統合HCMソリューション「POSITIVE」の法制度改正対応や新機能開発に従事。「お客様にとっての安心と使いやすさを追求し続け、より良い製品を提供したい」という思いで日々業務に取り組んでいる。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。 ※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。