【第2回】未来の勝敗を決める「人材要件」の定義とは?経営戦略から逆算する戦略人事の役割 人事キーワード・ノウハウ連載 公開日:2026年09月16日(水) 目次はじめに——過去の成功体験が足かせになるとき「誰を選ぶか」の前に「どんな能力が必要か」を決める未来の人材要件を決めるうえでのCOEとHRBPの役割「未来のポジション要件」を描く具体的なプロセスとはまとめ はじめに——過去の成功体験が足かせになるとき 前回のコラムでは、サクセッションプランにおいて「現時点で成果を出している人」をそのまま未来のリーダー候補に横滑りさせることの危うさについてお話ししました。 事業環境が非連続に変化する時代において、過去の成功体験はときに最大のブレーキになります。既存事業の中で最適化されてきたリーダーが、新規事業の立ち上げや抜本的なビジネスモデルの転換まで引っ張れるかというと、そう単純な話ではありません。 サクセッションプランニングを「経営の未来を創る仕組み」にするには、議論の出発点そのものを変える必要があります。「今いる人材の中から誰を選ぶか」ではなく、「未来の事業を勝たせるには、どんなリーダーが必要なのか」という問いから始めることです。 戦略人事とは? 「誰を選ぶか」の前に「どんな能力が必要か」を決める 経営戦略と人事戦略がきちんと連動している企業では、サクセッションの議論は必ず「事業ポートフォリオの変革」とセットで行われています。 たとえば、現在は国内のハードウェア販売を主力とする企業が、5年後にグローバルでのSaaSソリューション提供へ大きく舵を切る戦略を描いたとします。この場合、5年後の事業責任者に求められるのは、既存の国内販路を守る調整力ではありません。異文化マネジメントの経験や、ソフトウェアビジネス特有の顧客志向、すなわち「カスタマーサクセスを回していく力」へと、要件がまるごと入れ替わります。 こうして未来の経営戦略から逆算すれば、必要な人材要件(コンピテンシー、経験、スキル)は今のそれとは違うものになるのが自然なことです。候補者の名前を挙げる前に、まず「未来のポジションに何が求められるのか」を言葉化し、経営陣の間で擦り合わせておきましょう。この手順を飛ばしてしまうと、結局「知っている人の中から選ぶ」という従来の意思決定に戻ってしまいます。 未来の人材要件を決めるうえでのCOEとHRBPの役割 この「未来の人材要件」を定義するプロセスで、中核を担うのが戦略人事部門です。とりわけ、人事機能の専門分化(3ピラーモデルなど)を進めている企業では、COE(センター・オブ・エクセレンス)とHRBP(HRビジネスパートナー)の連携がカギになります。 COEの役割は、経営戦略を読み解いたうえで、全社共通のサクセッションの枠組みや、次世代リーダーに共通して求められるベース要件(変革志向やアジリティなど)を設計することです。 一方、現場の事業責任者に伴走するHRBPは、その事業部ならではの未来の課題を拾い上げ、COEの枠組みに現場固有の要件を掛け合わせていきます。事業責任者はどうしても「今の事業を回せる即戦力」を求めがちです。しかし、HRBPはそこに「5年後の戦略を実現するために何が要るか」という問いを差し込み、視座を一段引き上げます。これは一見地味ですが、かなりタフな役割です。 「未来のポジション要件」を描く具体的なプロセスとは 具体的な要件の定義には、「バックキャスティング(未来からの逆算)」の考え方を使います。 まず行うべきは、未来の経営・事業目標の確認です。3〜5年後、そのポジションが達成すべきミッションは何かを明確にします。 次に、直面するであろう課題の想定です。そのミッションを達成するうえで、どんなハードルや未知の課題が出てくるかを洗い出します。 そして、必要なコンピテンシーと経験の抽出です。その課題を突破するには、どんな思考特性やリーダーシップのスタイル、あるいはどんな経験していることが必要なのかを整理します。 これらを具体的な言葉に落とし込んで、未来のジョブ・ディスクリプション(職務記述書)とも呼べる「サクセッション・プロファイル」を作成します。この客観的な物差しがあって初めて、納得感のある後継者選びが始まります。 まとめ 「未来の人材要件」という物差しを定義することは、戦略人事にとって最も重要な仕事の一つです。これがないままサクセッションを進めるのは、地図をもたずに航海へ出るようなものです。 ただし、要件を定義できたとしても、次の壁が待っています。それは、「その要件に合う人材を、どうやって全社から見つけ出すのか」という実務上の課題です。 次回(第3回)では、記憶や直感に頼る「お気に入り人事」からの脱却をテーマに、客観的なデータを活用して次世代リーダーの原石を見つけ出す「データドリブンなサクセッション」の進め方についてお話しします。 執筆者略歴 斉藤 雅良 株式会社電通総研 HCM本部 HCM戦略コンサルティング部 株式会社電通総研入社以来、主に金融機関様向けの業務・人事・組織構造改革や、そのシステム 開発プロジェクトに多数従事。 近年は、業界問わず人事領域全般におけるコンサルティングプロジェクトに複数参画し、2023年5月より ローンチされたトータルHRソリューション「HUMAnalytics」と、人事基幹システム「POSITIVE」の周辺 サービスに関する企画・推進の統括責任者として、より多くの企業の人的資本経営実現をサポートしている。 ※このサイトに記載されている社名・商品名・サービス名等は、それぞれの各社の商標または登録商標です。 ※このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。