【第1回】「開示用リスト」で終わる企業、未来を創る企業。サクセッションプランの罠

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はじめに——急ごしらえの「後継者リスト」を量産していませんか  

2023年3月期から、有価証券報告書で人的資本情報の開示が義務化されました。コーポレートガバナンス・コードの改訂も重なり、「サクセッションプラン(後継者育成計画)」は、今や経営会議で避けては通れないテーマになっています。
各社とも、経営トップや主要ポストの後継者候補をリストアップし、ガバナンスの要請に応えようと取り組んできました。ですが、ここで一つ、不都合な真実があります。

「そのサクセッションプラン、本当に次の経営を担う人材を育てる仕組みになっているでしょうか?」

実態はどうでしょうか。

外部開示や取締役会報告のために、人事部が各部門へヒアリングをかけ、やっつけで作ったExcelのリスト。そのリストは、完成した瞬間から棚の奥へしまい込まれてしまいます。名前が並んでいるだけのサクセッションプランは、次世代リーダーの育成どころか、組織の新陳代謝を止めてしまうリスクがあります。

「今の優秀な人」を並べるだけのリストが抱える落とし穴

形骸化したサクセッションプランには、共通するパターンがあります。
それは、「現時点で成果を出している人」を、そのまま将来のリーダー候補にしていることです。

営業で圧倒的な数字を叩き出しているA部長。現行事業の隅々まで把握しているB本部長。彼らが今の会社を支えている優秀な人材であることに異論はありません。ですが、ビジネスモデルの寿命が縮み、業界の境界線が曖昧になっている時代に、「今のルールで勝っている人」が「次のルールでも勝てる人」とは限らないのです。

むしろ、過去の成功体験に強く根ざした人材をトップに据えることは、非連続な成長や、難しい意思決定を伴う事業ポートフォリオの転換にブレーキをかけるリスクになりえます。5年後、10年後の経営環境が今と違うのであれば、求められるリーダーの条件も当然変わります。今の成績表だけで候補者を並べるのは、未来の経営課題を、過去の処方箋で乗り切ろうとしているのと同じです。

なぜサクセッションプランは「絵に描いた餅」になるのか

多くの企業でサクセッションプランが機能しない原因は、突き詰めると2つに集約されます。

1つ目は、選抜プロセスが属人的であることです。
客観的なアセスメントやコンピテンシー評価を行わず、現経営陣の記憶や直感、あるいは「ウマが合う相手」といった感覚で候補者が決まってしまいます。これでは取締役会で「なぜこの人物なのか」をまともに説明できませんし、選ばれなかった側の優秀層が納得できず、辞めていくリスクも高くなります。

2つ目は、事業戦略との接点がないことです。サクセッションプランニングが「人事部の定例業務」の域を出ておらず、経営トップや事業責任者が自分ごととして関わっていません。リストを作って終わり。候補者に必要な修羅場を踏ませるための異動や配置転換、いわゆる「タフアサインメント」につながらないまま、ファイルだけが更新されていきます。

サクセッションを「人事部の作業」から「経営課題」へ再定義する

サクセッションプランニングが機能するかどうかの分かれ目は、この取り組みを「人事の作業」で終わらせるのか、「最も重要な経営課題の一つ」に引き上げるかで決まります。

重要なのは、「今いる人材から誰を選ぶか」という“Who”の議論を起点にしないことです。まず問うべきは、5年後・10年後の事業戦略を実現するために、

・どんなポジションが必要なのか
・そこにはどういう能力と経験を持ったリーダーが必要なのか

という問いです。

つまり、「Why(なぜそのポジションが必要なのか)」と「How(どう育てるのか)」から逆算していきます。

これが、事業戦略と人事戦略を噛み合わせる「戦略人事」の本丸です。サクセッションプランは、現在優秀な人をまとめたリストではなく、未来の事業戦略から逆引きした「人材パイプラインの設計図」でなければ意味がありません。

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まとめ 

「開示用リスト」で終わる企業と、未来を創る企業。その差は、サクセッションプランの出発点が「今いる人材」にあるのか、「これからの事業戦略」にあるのかで決まります。

次回(第2回)では、未来の事業戦略から逆算した「人材要件の定義」を掘り下げます。過去の成功体験が通用しない時代に、戦略人事はどうやって「未来のリーダー像」を描くのか。その具体的な進め方に踏み込んでいきます。

執筆者略歴

斉藤 雅良

株式会社電通総研
HCM本部 HCM戦略コンサルティング部

株式会社電通総研入社以来、主に金融機関様向けの業務・人事・組織構造改革や、そのシステム 開発プロジェクトに多数従事。 近年は、業界問わず人事領域全般におけるコンサルティングプロジェクトに複数参画し、2023年5月より ローンチされたトータルHRソリューション「HUMAnalytics」と、人事基幹システム「POSITIVE」の周辺 サービスに関する企画・推進の統括責任者として、より多くの企業の人的資本経営実現をサポートしている。

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このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。