【第2回】なぜタレマネによる「見える化」積み上げの先に、「データ活用」は存在しないのか?

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はじめに

多くの企業で、タレントマネジメントシステムの導入が進んできました。
社員情報、評価情報、研修履歴、資格、異動履歴、自己申告、キャリア希望など、これまで分散していた人事情報を一元化し、「人材の見える化」を進める取り組みです。
これは、人事DXの重要な第一歩でした。

しかし一方で、多くの企業が次の壁に直面しています。
「データは集まったが、活用できていない」
「人材情報は見えるようになったが、配置や育成の意思決定は変わっていない」
「タレマネに入力はしているが、現場や経営が使っていない」

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。
結論から言えば、「見える化」のために集められたデータと、AI時代に求められる「活用できるデータ」は、そもそも設計思想が異なるからです。
見える化の積み上げの先に、自然にデータ活用が生まれるわけではありません。
これから必要になるのは、「とりあえず集めるデータ」ではなく、何を判断したいのかから逆算して設計されたAI Firstな人事データです。

「見える化」と「意思決定に使える」は違う

タレマネによって、社員ごとの情報は以前より見えやすくなりました。
所属、役職、等級、評価、研修履歴、資格、自己申告、異動履歴などを一覧で確認できるようになったことは、大きな前進です。
しかし、経営や人事が本当に知りたいのは、単なる情報の一覧ではありません。

たとえば、知りたいのは次のような問いです。
「この人は次の新規事業ポジションにフィットするのか」
「この部門で今後不足するスキルは何か」
「採用すべきなのか、社内育成で足りるのか」
「誰にどの学習機会を提供すれば、事業戦略に必要な人材へ近づくのか」
「将来なくなる可能性のある業務に従事している社員を、どのように次の役割へ移行させるのか」

こうした問いに答えるには、情報が“見える”だけでは不十分です。
必要なのは、データをもとに判断できる状態です。
つまり、見える化はゴールではなく、意思決定のための材料にすぎません。

無作為に集められたレコードデータは、AI Firstではない

従来のタレマネに蓄積されるデータの多くは、人が読むことを前提にしています。
職務経歴書、自己申告、評価コメント、研修履歴、上司コメントなどは、人事担当者や上司が確認するには有効です。
しかし、AIに配置や育成の判断支援をさせようとすると、問題が見えてきます。

たとえば、職務経歴欄に以下のような記述があったとします。
「A部門で、新規顧客向けの提案活動を担当。」
人間が読めば、営業経験があることはわかりますし、同じ会社の人であれば、おおよそどういうことをしていたのか理解することができます。
しかし、AIで詳細にスキルを把握していくには、この文章を以下のように構造化する必要があります。

• 法人営業
• 顧客課題ヒアリング
• 提案書作成
• 部門間調整
• アカウントマネジメント
• プロジェクト推進
• 顧客関係構築

さらに、それぞれのスキルがどの程度のレベルなのか、どの業界で使われたのか、再現性があるのか、どのポジションで活かせるのかまで判断できる必要があります。
従来のレコードデータは、こうした活用を前提に作られていないことが多いのです。
つまり、データは存在していても、AIにとっては「使いづらいデータ」になっている。
これが、見える化の先にデータ活用が進まない大きな理由です。

データの「出口」がないまま集めても、活用は生まれない

多くの人事データ整備は、まず「何を集めるか」から始まります。

社員情報を集める。
スキルを集める。
キャリア希望を集める。
研修履歴を集める。
評価コメントを集める。

もちろん、データ収集は重要です。
しかし、より重要なのは、そのデータを使って何をしたいのかです。

たとえば、目的によって必要なデータは変わります。
配置最適化をしたいのであれば、社員スキルだけでなく、ポジション要件、本人希望、勤務地、等級、過去の類似経験が必要です。
リスキリングをしたいのであれば、現在スキル、目指す役割、必要スキル、学習コンテンツ、学習履歴、学習後の成果が必要です。
社内公募を活性化したいのであれば、求人情報、必要スキル、社員のキャリア志向、応募可能性、不足スキル、学習レコメンドが必要です。

つまり、同じ「人事データ」でも、出口によって必要な形はまったく異なります。
出口を決めずにデータを集めても、後から使おうとしたときに「必要な粒度ではない」「必要な項目がない」「比較できない」「AIが判断できない」という状態になります。
データ活用は、データをたくさん集めた先に自然発生するものではありません。
最初に、何を判断したいのかという意思が必要です。

人事データは“蓄積”ではなく“設計”する時代へ

これまでの人事システムは、主にデータを正確に保存することを目的としてきました。

社員マスタを保存する。
評価結果を保存する。
異動履歴を保存する。
研修履歴を保存する。
キャリア希望を保存する。

これは人事データの正本を管理するうえで重要です。
一方で、AI時代に必要なのは、保存されたデータをもとに、判断を支援する仕組みです。
そのためには、データの作り方そのものを変える必要があります。
これからの人事データは、以下のように設計されるべきです。

• どの意思決定に使うデータなのか
• どのユーザーが使うデータなのか
• AIがどのように解釈できる形にするのか
• スキルや経験をどの粒度で定義するのか
• ポジション要件と社員情報をどう比較するのか
• 不足しているデータをどのように補完するのか
• 一度作ったデータをどう更新し続けるのか

つまり、人事データは「過去を記録するもの」から、未来の判断を支えるものへ変わりつつあります。

AI Firstなデータとは何か

AI Firstなデータとは、AIが解釈し、比較し、判断支援に使えるように設計されたデータです。
人間が読めば何となくわかるデータではなく、AIが構造的に扱えるデータです。

たとえば、以下のような4つの特徴があります。
1つ目は、スキルや経験が構造化されていることです。
単に「営業経験あり」ではなく、法人営業、既存顧客営業、新規開拓、提案書作成、価格交渉、パートナー営業など、業務の中身が分解されている必要があります。
2つ目は、ポジション側の要件も構造化されていることです。
社員のスキルだけを整理しても、比較対象となるポジション要件が曖昧であれば、マッチングはできません。職務内容、必要スキル、歓迎スキル、期待成果、役割レベルをAIが扱える形にする必要があります。
3つ目は、本人の志向や希望も含まれていることです。
最適な配置は、スキルだけで決まりません。本人がどのようなキャリアを望むのか、どの領域に挑戦したいのかも重要です。
4つ目は、学習や成長可能性とつながっていることです。
現時点で完全にフィットしていなくても、どのスキルを学べば次の役割に近づけるのかがわかれば、配置と育成を一体で考えることができます。

AI Firstなデータとは、単にきれいに整ったデータではありません。
AIが次のアクションを提案できるデータです。

本当に必要なデータは、AIインタビューで取得することも有効な打ち手である

多くの企業では、既存データを活用しようとしたときに、次の問題に直面します。
職務経歴が十分に書かれていない。
評価コメントが抽象的である。
ポジション情報が存在しない。
ジョブディスクリプションが古い。
社員のキャリア希望が浅い。
現場の業務実態が人事データに反映されていない。

このような場合、既存データをいくら整備しても限界があります。
そこで有効なのが、AIインタビューのような仕組みです。
freecracy株式会社でも多くの企業が直面するこの課題に対して、AIインタビューを社内の社員向けへのスキル情報取得や、ジョブディスクリプションの作成などのデータ取得・深掘りに活用することが多くあります。
AIインタビューは、単なるアンケートではありません。
目的に応じて質問を設計し、回答内容に応じて深掘りし、必要な情報を構造化して取得することができます。

たとえば、ポジション要件を作る場合、現場マネージャーに対して以下のような質問を行います。
「このポジションで最も重要な成果は何ですか」
「その成果を出すために必要な業務経験は何ですか」
「必須スキルと、入社後に学べるスキルは何ですか」
「過去にこの役割で活躍した人には、どのような共通点がありましたか」

社員のスキルやキャリア志向を把握する場合も同様です。
「これまで最も成果を出した仕事は何ですか」
「その中であなたが担った役割は何ですか」
「どのようなスキルを使いましたか」
「今後挑戦したい領域は何ですか」

このように、意図を持ってヒアリングすることで、AIが活用しやすいデータを最初から作ることができます。
既存のレコードデータを無理に活用するのではなく、必要なデータをAI Firstに取得し直す。
freecracy株式会社が提供するタレントインテリジェンスプラットフォーム『TalentsForce』でもAIインタビューを提供させて頂いておりますが、社内活用に特化して既にシステムに存在する情報と連携しながら、より深掘りした質問を行う仕組みをご用意しています。
これが、今後の人事AI活用において重要な考え方になります。

まとめ

タレマネによる見える化は、人事DXの重要な第一歩でした。
しかし、その積み上げの先に、自動的にデータ活用が生まれるわけではありません。
なぜなら、見える化のために集められたデータは、必ずしもAI Firstではないからです。
無作為に集められたレコードデータは、人が読むには十分でも、AIが判断支援に使うには不十分なことが多い。
また、「何を判断したいのか」「どの意思決定を変えたいのか」という出口がなければ、データは活用されません。

これからの人事DXに必要なのは、単に人材情報を集めることではありません。
事業戦略や人材戦略から逆算し、必要なデータを設計し、AIが活用できる形で構造化し、不足するデータはAIインタビューなどを通じて意図的に取得することです。

「見える化」から「活用」へ。
その転換に必要なのは、データの量ではありません。事業や人材に関する明確な問いと、AI Firstなデータ設計です。

 

執筆者略歴

国本和基

freecracy株式会社
代表取締役社長兼CEO

米国オクラホマ州立大学卒業後、アビームコンサルティング入社。メガバンク・事業会社にて財務及びIT領域においてコンサルティングを行う。大手事業会社に転職後、PMとしてヨーロッパでのM&Aや東南アジアでのERPシステム導入プロジェクトを行う。その後ベトナムにて教育・メディア・IT事業を行うKijin Edutainmentを立ち上げ4年間の事業運営後、日系大手教育企業へ売却。渋谷を拠点とするHRTechスタートアップの東南アジア拠点を立ち上げるも、自分のサービスを作る為退社。
HRTechに特化した2社目のスタートアップであるfreecracyにて、データドリブンな採用プラットフォーム『freeC』をはじめ、優秀エンジニアのみの開発事業『DX Studio』、Built on AI型タレントインテリジェンスプラットフォーム『TalentsForce』を運営。
米国公認会計士。
著書:『2030年の人事部』、『エンジニアリソース革命』 

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このコラムは執筆者の個人的見解であり、電通総研の公式見解を示すものではありません。